本作で演出を担うのは、2000年に劇団チョコレートケーキを旗揚げし、劇団作品のみならず外部公演の演出も多数手がける日澤雄介。14年、17年、22年には読売演劇大賞優秀演出家賞などを受賞している。また、脚本を手がけるのは2002年から劇団チョコレートケーキに参加し、劇団作品、外部公演、さらにドラマやドキュメンタリー番組の脚本も手がけている古川健。本年、『白き山』『つきかげ』で鶴屋南北戯曲賞を受賞している。
日澤と古川は22年に<日本の戦争>に焦点を当てた5作品と新作を加えて6作品の連作『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』を上演しており第30回読売演劇大賞・大賞を受賞している。
「まだ、最終稿も上がっていない状況ですが、何稿か読ませていただいている中で、脚本の古川健さん、演出の日澤雄介さんお二人が、この物語をどういう風に観客に伝えればいいのかと葛藤なさりながら試行錯誤を重ねていらっしゃるのが推察できます。ノンフィクションの部分を大切にしながらもドラマとして伝えることを日々もがき考えていらっしゃるのが、台本の細かい部分からも伝わってきます。そう感じたとき、お二人に触発されることで、ぼく自身が作品世界の住人になる確かなステップとなっていることを実感できています」
さらに「家族という一番身近な存在であり、人との関わりの最小単位である家族の一員としての部分で戦争というものを感じるきっかけにこの作品がなればいいなと思っています。戦争を、その渦中にいる家族の物語として演劇を通して伝えられる、それを実感できる芝居であるとすでに感じています。演出の日澤雄介さんとは、以前一度ご一緒したことがあって、また一緒にやりたいと思っていました」とも。この作品を通して、〝愛〟という力が、桂子さんの人生を創りあげているのだな、とそんな気がしています。
役に入るとき、俳優たちはどのようにして役にアプローチしていくのだろうか。その方法論は俳優それぞれだろうが、果たして山口馬木也のメソッドはいかなるものなのか。今回の役どころは、娘がアメリカ兵と結婚することで差別の眼で見られたり、周囲の風当たりの強さを心配しながらも、娘の意思を尊重し祝福する父親である。
「役柄を解釈するということは大事だとは思いますが、そこに必要以上にとらわれないようにしています。一人よがりの解釈によって間違った方向に行くということもありますし。稽古の段階も舞台の本番同様ライブだと思っていて、共演者のみなさんと実際に向き合っていくその段階の折々で感じていく中から自分なりに役を見つけていく。それが一番正解に近いかもしれないなと」
本作で初共演となるキャストが多く、演じる俳優によって舞台の質も変わっていくので、新たな出会いを楽しんでいるという山口。
「娘役の奈緒さんは、どんな教育を受ければこんなすてきな娘さんに育つのだろうかと思える知的で情感豊かなお嬢さんという印象を持ちました。芝居で活かすか否かはわかりませんが、奈緒さんの父親役としては奈緒さんのことはたくさん知りたいと思っています。この作品への奈緒さんの思い入れには並々ならぬものを感じていますし、奈緒さんは実際にアメリカで桂子さんご本人にもお会いになっていて、この役に対する熱量というものを、すでに奈緒さんからすごく感じています。この作品を通して〝愛〟という力が、桂子さんの人生を創りあげているのだな、とぼくが感じた思いを観客の方々にも同様に感じていただけるよう、奈緒さんは説得力をもって演じてみせてくれるに違いない。そんな確信がすでにぼくの中で膨らんでいます」