俳優という仕事を30年も続けられてきた原動力は何だったのか。インタビューを進める中で、大倉孝二という俳優はそんな思考とは無関係のところに存在してきたように思えてきたが、あえてその質問をぶつけてみたくなった。俳優という仕事は大倉孝二の中のどんな部分を満たしてくれているのだろうかと。
「そこに関してあまり突き詰めてしまうと、何か続けられなくなってしまう気がするんですよ。だから、何をやっているから続けられているのだとか、どうして続けているのかということをあまり深く思考しないようにしているのかもしれないです。いただいた仕事をどういうふうに、よくしていくかということだけになるべく終始するというのか、それ以外の理屈みたいなものをあまり考えないようにしているのかもしれないですね。
正直、演技をするということ自体はそんなに好きというわけではないんです。ですが、これ以外の仕事をしたこともないですし、やはり映画にしろ舞台にしろ、たくさんの人たちが一つのものに向かって行っているということを何か感じられたときには、そこに身を置いていることが光栄だとか嬉しいなという気持ちにはなりますね。こういうことがあったからというような俳優としての成功体験ばかりを手がかりにして、続けていくことがいいことには思えないんですよ。もちろん、あの役が好きでした、あの舞台を観ていましたとか言われることはとても嬉しいことですが、そういうことだけでは続けていけないので。やっているときに何かを得られるわけではないんだと思うんです。きっと結果って、もっと後々に表れるような気がしていて。だから、こういうことが出来た、こんな手応えを得られたというようなことをその都度あまり考えずに、常に毎回挑むという気持ちでいる。ちょっとうまく説明できないんですが、そんな気持ちかなというところですね」
今回の舞台では主役のドン・キホーテを演じ座を率いる立場の大倉。
「主役であろうとなかろうとやる作業は変わらないですね。ぼく自身がリーダーシップを発揮できるいわゆる座長タイプの人間ではないので、そこを無理してやるより、いつも通り自分がやるべきことをやるのがいいんじゃないかなと思っています。
ぼくは演じることが仕事なんです。どういうものを作りたいかということをしっかりとイメージしている方の思いをきちんと受け取りいかに具現化するかがぼくの仕事だと思っているので、この作品はどういうふうに観てもらいたいとか、舞台はどういうふうに観てもらうものだとかあまり考えないです。考えないようにしているのかもしれません。それよりもぼく自身がその作品のできあがるものの一要素でありたいと思っているのかもしれないです。映像と違う舞台の魅力はというようなこともあまり意識したこともありませんし、それは観てくださる方々が、これこそが舞台ならではの魅力だなと思っていただけるのなら、それでいいなと思うんです」
題材自体や、その作品の世界観が俳優として自身がやるべきことを大きく飛躍させてくれる気がするという大倉。大倉孝二のドン・キホーテに出会った観客は何を受け取るだろう。