第22回【私を映画に連れてって!】元フジテレビ局員が語る〝フジテレビ騒動〟で顧みる〝フジテレビイズム〟とは。そしてテレビ局とは、映画とは、ドラマとは。

 旭化成には19時45分からの「スター千一夜」15分枠(月~金曜日)を、まとめて火曜日21時の1H枠に統合移動の提案。新番組は王東順プロデューサーの「なるほどザ・ワールド」(1981年10月~1996年3月)。営業や編成のせめぎ合いは色々あっただろうが、新番組はどれも快進撃となる。いくつか要因はあり、王プロデューサーらは雨傘番組の制作(ナイターが雨の中止時の代打番組)など、絶えず、番組のクリエイティブの鍛錬を続けてきた人たちである。今は「コンテンツ」等と一括りにされるが、当時は番組=作品制作に必死の想いで取り組んでいたと思う。

 
 新機軸の決定打は連続ドラマ「北の国から」(杉田成道監督/1981年10月~1982年3月)であろう。通常、連ドラは数人のディレクターが受け持つが、クリエイティブにすべて責任を持つこのドラマは「監督」が相応しい。通常のドラマ制作費の2倍とか3倍の費用をかけたとも言われたが、「フジテレビのドラマ」をブランドまで押し上げた功績は大きい。ぼくが『病院へ行こう』(1990/滝田洋二郎監督)を2億5千万円の制作費で創っていたころ、特番「北の国から‘89帰郷」は5億とかそれ以上の制作費だと聞いたことがある。

 
 1980年10月スタートの「笑ってる場合ですよ!」もお昼の時間帯(12時~13時)の概念を大きく変えた。その後「森田一義アワー 笑っていいとも!」になり2014年まで続くことになる。

 
 これらだけではなく、報道面、事業面、スポーツ番組なども新機軸を連発した。上記はすべて1980~1981年にスタートした番組である。

 

 この流れが無ければ、『南極物語』(1983)も到底、誕生しえなかっただろう。大ヒットしたあと鹿内氏は「映画スタッフみんなで熱海に泊りがけで行こう!」と100人以上を引き連れ、大抽選会を行ったことは忘れ難い。ぼくもおこぼれで家具調こたつが当たった。日枝氏からは「お前、会社のために仕事するなよ! 自分の為にしろ、それが結果、フジに還ってくるんだ」と言われ、「?」となったが、その後の自分の行動を考えると、それに近い価値観で映画製作をやっていた気がする。両者に共通していたのは「外の人を大切に。フジが良い時もダメな時も、外部の人が一緒に仕事をしたい! と思ってくれるように」

▲1983年公開の『南極物語』の関係者の集まり。日本ヘラルド映画の配給で、フジテレビとの二人三脚で大ヒットに仕立てた。スピーチをしているのは日本ヘラルド映画常務の原正人氏。写真前部のテーブルには日枝久氏の顔も見える。日枝氏の隣はメガホンをとった蔵原惟繕監督だろうか。筆者は司会を務めた。筆者曰く、原氏と日枝氏が両方写っている写真は珍しい、と。この二人の決断で、後にシネスイッチ銀座が開館することになる。左端には荻野目慶子の姿も見える。




 1982年から1993年まで12年間、民放の視聴率3冠王を続けられたのは、この改革のお陰である。社員が、外部の人が、楽しく、面白く番組を創り、視聴者はフジテレビが何を見せてくれるかを期待してくれていた時代である。

 
 この体制の中でぼくも『私をスキーに連れてって』(1987)からミニシアターのシネスイッチ銀座設立(1987)など、様々な映画に関われることになる。シネスイッチ銀座にて最初の日本映画『木村家の人びと』(滝田洋二郎監督/1988)の完成披露試写会を行なった。そこに鹿内春雄氏も駆けつけてくれ、2階席でひとりだけ特別大きな声で笑っていたのを覚えている。「面しれえじゃないか!」と笑顔で去っていった……。

 
 まさか、その数日後(4月16日)に亡くなるなど信じられなかった。42歳。フジテレビ、産経新聞社、ニッポン放送の会長であり、フジサンケイグループの議長だった。ぼくらは鹿内春雄氏(面接)の一期生でもあり、新入社員の時から、色んな話をしてくれた。フジサンケイグループのシンボル(通称、目ん玉マーク)も役員会の時、誰も賛成しなかった話は印象的だ。それまでの「8」チャンネルをもじったばかりのデザインの中で、唯一無二の独創性。一度見たら忘れられない……。「これで行く!」と押し切った? 話を笑いながら生き生きとしてくれた。好奇心抜群、人がやったことの後追いはしない。新鮮で、見ている人を驚かせたり、楽しくなるようなことを考えよう!……これは最後まで変わらなかった。

▲『南極物語』公開初日に、日比谷映画(当時)の前で。蔵原惟繕監督、夏目雅子、荻野目慶子、渡瀬恒彦らに交じって、鹿内春雄氏(左から2人目)も写っている。

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