母離れのできない少年のようでいて、どこか向こう見ずで無鉄砲、正義漢でもあり、男っ気を張らんとするあまり、行く先々で騒動に巻き込まれてばかりの主人公・星野鉄郎。
長い旅をともにする謎の女性メーテルは、鉄郎の母に似て、いつも慈しみ深く見守り、ときに冷たく突き放す親心のような情愛を持ち併せている。
松本零士が精緻に描きつづけた『銀河鉄道999』の長い旅は、第1話「出発のバラード」から物語を紡ぎだしてゆく。
少年漫画誌全盛時代に育った私は、こう振り返っていても、大ヒットしたゴダイゴによる映画の主題歌「銀河鉄道999‐The Galaxy Express 999」が自然といつまでも聴こえてくる。
物語は、真っ暗な天空を仰ぐ母と少年の姿を描いて始まる。戦火の夜を思わせる平原のような暗闇の世界である。「銀河急行」がズズズ……と弧を描いて夜空を進んでいる。
夜が更けて身が凍える。
雪が降る――と子の身を案じていた母は、突然、銃撃を受けて倒れる。
「銀河特急999号に乗ると いつか機械の体がタダでもらえる惑星の駅につくそうです」
「お父さんやお母さんの分まで長生きしなさい」
そう言い残して母は息絶える。雪は勢いを増してきて、鉄郎は野で力果てて意識を失う。
鉄郎が息を吹き返して我に返ったとき、傍らで母とそっくりの女性がやさしく微笑んでいた。
「気がついた? さあ、スープをのんで…… あなた半分凍りついていたのよ」
長い旅の始まりであった。
「私はメーテル」と名乗った女性は、老いることも朽ちることもない機械の身体を持つべく、地球とアンドロメダとを行き来する「無期限の銀河鉄道のパス」を鉄郎に与え、宇宙へとともに旅立つことになる。メーテルは、無期限のパスが「いっしょに行ってくれるお礼」であると鉄郎に手渡した。
「週刊少年キング」(少年画報社)1977年1月24日・31日合併号に掲載された『銀河鉄道999』第1話の印象的なシーンである。少年画報社文庫版『銀河鉄道999』第1巻(1994年)などに収められているほか、現在では電子書籍版でも読むことができる名シーンの肉筆原画は、このたびの「松本零士展 創作の旅路」会場で展示されると聞く。