SPECIAL FEATURE

【特集】漫画家・松本零士の〈宇宙〉の旅へ、どうぞ。

 
 母離れのできない少年のようでいて、どこか向こう見ずで無鉄砲、正義漢でもあり、男っ気を張らんとするあまり、行く先々で騒動に巻き込まれてばかりの主人公・星野鉄郎。

 長い旅をともにする謎の女性メーテルは、鉄郎の母に似て、いつも慈しみ深く見守り、ときに冷たく突き放す親心のような情愛を持ち併せている。

 松本零士が精緻に描きつづけた『銀河鉄道999』の長い旅は、第1話「出発のバラード」から物語を紡ぎだしてゆく。

 少年漫画誌全盛時代に育った私は、こう振り返っていても、大ヒットしたゴダイゴによる映画の主題歌「銀河鉄道999‐The Galaxy Express 999」が自然といつまでも聴こえてくる。

▲『銀河鉄道999』第7巻カバーイラスト1978年(少年画報社) ©松本零士/零時社
黒衣と長い金髪、憂いを帯びた大きな瞳が特徴のメーテルなど、松本が描く美女のキャラクターには、憧れの女性が投影された。メーテルのモデルは、松本が小学生の頃憧れた、オランダ医師・シールボルトの孫娘、三瀬(旧姓楠本)高子さんのようだ。優しさと強さの両面を兼ね備えている女性が各作品のヒロインとして登場する。余談だが、松本の好きな女優は、『わが青春のマリアンヌ』のドイツ人女優・マリアンヌ・ホルトと八千草薫。とくに八千草の写真を学生の頃は守り神にしていたという。

 

 物語は、真っ暗な天空を仰ぐ母と少年の姿を描いて始まる。戦火の夜を思わせる平原のような暗闇の世界である。「銀河急行」がズズズ……と弧を描いて夜空を進んでいる。

 夜が更けて身が凍える。

 雪が降る――と子の身を案じていた母は、突然、銃撃を受けて倒れる。

「銀河特急999号に乗ると いつか機械の体がタダでもらえる惑星の駅につくそうです」

「お父さんやお母さんの分まで長生きしなさい」

 そう言い残して母は息絶える。雪は勢いを増してきて、鉄郎は野で力果てて意識を失う。

 鉄郎が息を吹き返して我に返ったとき、傍らで母とそっくりの女性がやさしく微笑んでいた。

「気がついた? さあ、スープをのんで…… あなた半分凍りついていたのよ」

 長い旅の始まりであった。

「私はメーテル」と名乗った女性は、老いることも朽ちることもない機械の身体を持つべく、地球とアンドロメダとを行き来する「無期限の銀河鉄道のパス」を鉄郎に与え、宇宙へとともに旅立つことになる。メーテルは、無期限のパスが「いっしょに行ってくれるお礼」であると鉄郎に手渡した。

「週刊少年キング」(少年画報社)1977年1月24日・31日合併号に掲載された『銀河鉄道999』第1話の印象的なシーンである。少年画報社文庫版『銀河鉄道999』第1巻(1994年)などに収められているほか、現在では電子書籍版でも読むことができる名シーンの肉筆原画は、このたびの「松本零士展 創作の旅路」会場で展示されると聞く。

▲『銀河鉄道999』「週刊少年キング」1977年1月24日・31日合併号/No.5・6(少年画報社) ©松本零士/零時社(左)、『銀河鉄道999』「週刊少年キング」1978年4月24日号/No.18(少年画報社) ©松本零士/零時社(右)
タイトルの「999」に込めているのは、〝青春〟という意味があり、これが〝1000〟に達して、ようやく大人として認められたというニュアンスがある。─劇場版「999」のラストシーンで「さらば、少年の夢よ」と添えたのも、青春を卒業するという意味を持たせたという。


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