『足にさわった女』(60/大映)出演時、植木等より谷啓に着目した監督の増村保造は、本人に「あなたは役者の方が向いていますよ」と告げたそうだが、映画の中の谷はどことなく恥ずかしそうで、俳優などやる人ではないことが透けて見えてくる。
照れ屋と目立ちたがり屋のはざまに揺れる、繊細な演技=表現力が谷啓の最大の魅力であることは言うまでもなく、方や植木等が〈加害者ムード〉の作品ばかりなのに対し、谷啓はどうしても〈被害者ムード〉の役が多くなる傾向にあった。
ということで今回は、谷啓が演じた役の傾向について振り返ってみることにしたい。
まず、クレージーキャッツ(ほぼ)全員で出演した作品には、放浪の画家・山下清を取り上げた『裸の大将』(58)をはじめ、『ああ女難』(60)『腰抜け女兵(ニュイピン)騒動』(61)がある。まだ夫々のキャラクターが確立されているわけではないが、先の大映映画『足にさわった女』もこの時期の作品であり、演技の方は「おとなの漫画」(CX)の寸劇で少しは鍛えられていたのだろう。『腰抜け』では全員での演奏シーンもあり、谷啓の果たした役割は大きかったはずだ。
松竹、大映でのグループ出演作を経て、遂に東宝映画『ニッポン無責任時代』(62)で大ブレイクした植木等並びにクレージーキャッツ。テレビドラマの映画版『若い季節』(62)やスパーク三人娘の主演作『ハイハイ三人娘』(63)などに助演の後、グループ全員が活躍する『クレージー作戦 先手必勝』(同)を皮切りに、いわゆる〝作戦〟シリーズがスタートする。
渡辺プロの戦略により、ハナ肇は松竹、犬塚弘は大映、そして谷啓は東映で主演作を持つこととなったクレージー。谷は63年に『宮本武蔵』シリーズの三作目『二刀流開眼』に〝コメディリリーフ〟として出演。その後も東映で『図々しい奴』正続篇(64)や『喜劇 競馬必勝法』シリーズなどで主演を重ねる。しかし、そのテイストは極めて東映調というべきもので、筆者は洗練=都会派ムードの東宝作品での谷に、より強いシンパシーを覚えた。
植木等主演の〝日本一(の男)〟シリーズ(※2)や〝作戦〟シリーズでかなりアクの強い役を演じても、谷啓にはどこか育ちの良さや、ミュージシャンとしてのスマートさを感じたものだ。