ご存知のように谷がこれらの映画で演じたのは、内向的で自虐的な人物が多い。先に述べた〈被害者ムード〉の役ばかりで、これは恥ずかしがり屋で、トイレに行くのを知られるのも嫌った(ハナ肇の証言による)谷啓の性格をそのまま取り入れたものだ。
自宅が火事で全焼したときは、動揺を隠すため(?)焼け跡で雀卓を囲んだという奇天烈な逸話も持つ谷。『日本一のホラ吹き男』(64)の冷暖電球開発技師や『大冒険』(65)、『だまされて貰います』(71)における発明家などは、〈内向き〉だが〈目立ちたがり屋〉でもある谷のキャラを最大限に生かした役柄と言える。
そんな谷啓が加害者側に転じたのが、東宝では初の主演作『クレージーだよ 奇想天外』(66)。α星からやってきた宇宙人・ミステイクセブン=谷啓が、戦争をやめない地球人の行動に戸惑いながらも、平和工作を試みるというファンタジー風刺喜劇で、喜劇のスタイルをとって「反戦」や「愛」を語ることなど、坪島孝監督にしかできない技である。ラストで歌われる「虹を渡って来た男」のほろ苦さは、六十年近く経っても心に染みついて離れない。
次いで谷は、植木等との〝バディもの〟『クレージーだよ 天下無敵』(67)に挑む。すでに『無責任清水港』(66)という、植木等=追分三五郎と谷啓=森の石松のコンビで活躍する作品はあったが、これはハナ肇=清水次郎長をはじめとするグループ全員の枠組み内でのタッグに過ぎなかった。
ちなみに、これらの作品の監督も坪島孝。エノケンやロッパのP.C.L.喜劇に多大な影響を受けた監督である。坪島は『奇想天外』のほか、戦争映画の『蟻地獄作戦』(64)でも谷のキャラ(ここでは中国人軍医役!)を十分に生かしていただけあって、植木等とのライバル・ストーリーは予想以上の相乗効果を生む。
『天下無敵』では、遠い神代の昔から宿敵関係にあった植木と谷がライバル会社(トヨトミ電機と徳川ムセン)に入社し、新製品「立体テレビ」をめぐって熾烈なスパイ合戦を展開する。それも同じアパート「関ケ原荘」(※3)の住人同士という設定なので、〈攻め〉の植木と〈守り〉の谷の図式がますます際立つ仕組みだ。