坪島は、ハナ肇・植木等とのトリオによる『クレージー黄金作戦』(67)や『クレージー メキシコ大作戦』(68)でも谷の持ち味をいかんなく発揮させていたが、谷啓が大のお気に入りだったことは、念願の企画『奇々怪々 俺は誰だ?!』(69:シュールでブラックな大人のコメディ)や『喜劇 負けてたまるか!』(70:CM業界を描く風刺喜劇)に谷を登用したことでも明らか。坪島は、谷の面白みが〈巻き込まれ型〉にあったことをよく理解していた監督であった。
ミュージシャンとしての谷啓の魅力は、トロンボーンの実力はもちろん、そのカン高い歌声にある。グループで歌を吹き込むときは谷だけキーを上げていたり、ワンオクターブ上で歌っていたりする曲もあり、そこにトボけた味わいを感じた方も多いだろう。
筆者が挙げる谷の楽曲の最高傑作は、「虹を渡ってきた男」とのカップリング曲「プンプン野郎」(66) (※4)。『天下無敵』の劇中、山本直純作のこの〈ぼやきソング〉が「関ケ原荘」に帰る道すがら歌われるシーンからは、サラリーマンの悲哀とともに、谷にしか出せないペーソスと可笑しみが滲み出てくる。
谷啓、こんなヘンテコリンで愛おしい俳優&ミュージシャンは、二度と現れないだろう。
※1 脚本と音楽を担当したのは、ポール・マッカートニーと植木等をこよなく愛する斎藤誠。桑田佳祐が青学の先輩にあたることから、現在でもSASのサポートメンバーを務める。
※2 『日本一のゴマすり男』にはノンクレジット(ラストの白バイ警官役)で出演。
※3 「関ケ原荘」は、今や暗渠(緑道)化された烏山川に架かる「中村橋」のたもと(経堂5丁目31番地)に建つアパート。
※4 ヘンリー・ドレナン作のほのぼのソング「ヘンチョコリンなヘンテコリンな娘」と「小指ちゃん」のカップリング盤(65)も大のお気に入りだった。のちにフォーク・シンガーの加川良が『やぁ。』(URC)で「小指ちゃん」をカバーしたときは、密かに歓喜したものだ。
高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。