連載

第35回【キジュを超えて】 ひとりカフェの愉悦 ─萩原 朔美の日々

—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—

萩原 朔美さんは1946年生まれ、2023年11月14日に77歳、紛れもなく喜寿を超えているのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません! 

連載 第35回 キジュを超えて

 
 外出すると、必ず一度はカフェに入る。端っこに座って、とりとめのない事を考え続ける。答えを探すのではなく、うろうろと自問自答を巡らす無駄の消費。何ひとつ結論は降りてこない。ひとりカフェは、性急に答えを求められる日常生活から脱出し、迷子になる楽しい時間なのだ。

 時々、老化のスピードが、カフェタイムでは鈍化している。そう感じる事がある。空想の世界に遊んでいると、頭が身体から家出する瞬間があるからだ。

 

 月に一度、癌の定期検診に通っている大学病院でも、まるで決まり事のように、診察前と後の二回院内のカフェでお茶してしまう。それが楽しいから飽きもせず病院に何年も通えるのだ。病状の進行も、老化と同様カフェタイムだけは鈍化している。そう思っているから、ひとりカフェは楽しめるのである。




 

第34回 オブジェは語る
第33回 まだまだ学べ
第32回 命のデータ
第31回 目の奥底
第30回 老いも若きも桜の樹
第29回 僻んではいません
第28回 私の年齢観測
第27回 あゝ忘却の彼方よ
第26回 喜寿を過ぎて
第25回 生前葬でお披露目する「詩」
第24回 我を唱えず、我を行う
第23回 老いは戯れるもの
第22回 引きこもりの愉しみ
第21回 楽しい会議は老化を防ぐ


はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長特別館長、金沢美術工芸大学客員名誉教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。



comoleva