日常生活に欠かせない重宝な風呂敷
バッグの普及で近年はあまり見かけなくなってしまったが、昭和の暮しには、風呂敷が欠かせなかった。
たった一枚の布でさまざまなものを包める。本、書類、酒瓶、教科書、弁当、銭湯に行く時の洗面道具、天地無用のケーキや人形、寿司の折詰、着物、 結婚式の引出物……挙げてゆと切りがない。
軽くて折り畳みの出来る風呂敷は持ち運びも便利だし、使い終ったら元の 一枚の布に戻せる。日本人の暮しの知恵だった。
昭和二十七年公開の家庭劇の秀作、成瀬巳喜男監督の『おかあさん』には、さまざまな風呂敷が描かれていて、昭和のこの時代まで風呂敷が庶民の暮し に欠かせないものだったことがよくわかる。
一家は東京の蒲田あたりでクリーニング店を営んでいる。母親は田中絹代、父親は三島雅夫。長男の片山明彦は肺 病んで療養所に入っている。ある時、母親の顔が見たくて家に戻ってくる。 庭先に恥しそうに現れた長男は手に大きな風呂敷包みを持っている。入院中 の服や日用品を入れているらしい。
父親が病死する。通いの職人、加東大介が手助けに来る。彼は小さな風呂敷を持っている。昼の弁当が入っているのだろう。
ある時、客の帽子を染めるのに失敗して弁償することになる。当座のお金を作るため、母親は娘の着物などを質に入れることにする。箪笥から着物を出して風呂敷で包む。
日常生活の随所で風呂敷が使われている。
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