21.09.28 update

学校時代の思い出のランキング、トップは昭和も今も変わらない修学旅行

時代が昭和から平成に変わっても、修学旅行は学校時代の最高の楽しみ、最大のイベントだろう。ただ、旅行先が海外であったり、スキー旅行だったりとスタイルはずいぶんと様変わりしているようである。それでも、浅草や原宿あたりは今でも修学旅行生たちでにぎわっている。昭和50年代頃には、テレビの公開人気歌番組の観覧というのも大好きなアイドル歌手たちに会えるということで、人気だった。修学旅行のお供には旅の栞や歌集などがつきもので汽車やバスの中は明るく弾んだ歌声が響いた。昭和38年に詰襟姿の舟木一夫が歌ってヒットした「修学旅行」は昭和の修学旅行愛唱歌の定番だったが、今はどんな歌が合唱されているのだろう。バスガイドのお姉さんへの淡い憧れ、宿での枕投げ、修学旅行の思い出はつきない。


学校時代の最高の思い出、修学旅行

~汽車やバス、宿での時間も楽しかった幸せな記憶~

文=川本三郎

昭和の風景 昭和の町 2015年4月1日号より


 『二十四の瞳』に描かれた修学旅行の楽しさと悲しさ

 まだ旅行が一般的ではなかった時代、子供にとって大きな楽しみだったのは、遠足とそして修学旅行だった。
 修学旅行は泊りがけだから、小学校の高学年や、中学、高校になってはじめてゆくことが出来る。
 明治のなかごろに教員を養成するための師範学校が始まった。当初は、軍隊の行軍に倣った鍛練の性格が強かったが、次第に見聞を深めるための旅行へと変わっていった。
 大正から昭和にかけて、全国の学校に広まっていった。小学生も出かけるようになる。 
 壺井栄原作、木下惠介監督の『二十四の瞳』(54年)は、小豆島の小学校(分校)の大石先生(高峰秀子)と十二人の生徒の物語だが、この映画のなかに修学旅行の場面がある。
 六年生の秋、子供たちが先生に引率されて修学旅行に行く。昭和十年頃。 

 小豆島から船で四国に渡り、金毘羅宮、屋島、高松の栗林(りつりん)公園と巡る。船の中では、〽金毘羅、船、船……と歌を歌う。男の子は学生服、女の子はセーラー服。この日のために新しく靴を買ってもらった子供もいる。
 この時代、小学校を出ると働きに出る子供が多かったから、修学旅行は子供時代の最後のいい思い出になった。
 壺井栄の原作を読むと、例年だとお伊勢参りをするのだが、満州事変(昭和六年)、上海事変(昭和七年)と次第に戦時色が強まってきている時節柄、近くの金毘羅宮に決まった、とある。四国の名所である。
 村の小学校に通う子供たちの家は貧しい。八十人いる生徒のうち、修学旅行に行けたのは六割だった。それも、一泊旅行ではなく、朝、船で出て、晩の船で戻るという日帰りの強行軍。弁当を三食持ってゆく。
 途中、大石先生は、高松のうどん屋で、家が貧しく、小学校を途中で辞めて働きに出た教え子の女の子に会い、心を痛める。
 この子供が、修学旅行を楽しんでいる同級生たちを乗せた船を遠くから一人、見送り、泣き崩れる姿は悲しい。

女学生のお目当てはデパートでの時間

名所巡りも楽しいが、子供たちにとってワクワクするのは東京のデパートである。小説『若い人』の函館の女学生たちも訪れた、三越日本橋本店のルネッサンス様式を誇る現在の建物は昭和10年に増築改修されたもの(写真)で、当時は、国会議事堂、丸ビルに次ぐ大建築だった。写真提供:株式会社三越伊勢丹

 それに比べると、ミッションスクールに通う女学生たちは恵まれている。
昭和十二年(1937)に出版されて大ベストセラーになった石坂洋次郎の『若い人』は、函館のミッションスクールを舞台にしている。
 この私立の女学校では、五年生(現在の高校二年生)の秋、毎年、修学旅行が行なわれる。
 函館から、東京、鎌倉、名古屋、京都、大阪、伊勢とまわる。飛行機のない時代、八日間の大旅行になる。
 東京に着くと十三台もの「遊覧自動車」で市内見学に出発する。まず行くのが皇居というのが、この時代らしい。

 さらに靖国神社、明治神宮、乃木大将邸、泉岳寺と巡る。固いところばかりでさすがに女学生には疲れる。
 ようやくお目当ての、日本橋の三越デパートにたどり着いて元気が出る。四十五分の「自由散策」を許されて、女学生たちは大喜びでデパートのなかへ入ってゆく。
 やはり女学生には神社やお寺より、デパートのほうが楽しい。


 

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.03.28
    【帯津良一・88歳のときめき健康法】 あぁ、狂おし...

    文=帯津良一

  • 2024.03.28
    サントリーホールの春の人気無料イベント 「オープン...

    4月6日(土)11:00~

  • 2024.03.28
    「しあわせになりたいなぁ」と呟くように歌唱する、国...

    「はるみ節」で、レコード大賞3冠受賞

  • 2024.03.27
    街を歩けばアートになる

    変圧器はスクリーン

  • 2024.03.27
    画鬼・河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」と「武四郎涅槃図...

    4月13日(土)~6月9日(日)

  • 2024.03.26
    5年後(2029年)に高さ260mの高層ビルの出現...

    新宿駅西口地区開発計画

  • 2024.03.26
    軍事政権下の暗黒のミャンマーで闘う監督自らのドキュ...

    応募〆切:4月21日(日)

  • 2024.03.26
    舞台は19世紀後半のアイスランド。壮大なスケールの...

    3月30日(土)全国順次公開

  • 2024.03.25
    ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催...

    4月10日(水)~5月27日(日)

  • 2024.03.25
    山梨県立美術館「ベル・エポック─美しき時代 パリに...

    応募〆切:4月17日(水)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!