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可愛い灯具の落ち着く先

私の生前整理 2015年10月1日号より


文=石井幹子
照明デザイナー


見わたせば愛着がある
旅先で手に入れた古灯具達

今迄、沢山の照明作品を創ってきた。東京タワー、レインボーブリッジ、浅草寺や函館市、倉敷市等々。そういった明かりは、デザインが終えて現地で完成した後は、私の手を離れ大勢の人々のものになる。私の手許に残るのは、スケッチや図面等で、私自身はあまり執着がない。

 改めて私が残す大切なものは何かと考えた時、ある、ある! 旅先で折につけ買い集めた古灯具達である。きちんと台帳につけて整理したことはないけれど、多分百点近くにはなるだろうか。

 その中でも何点かは特に愛着がある。まず。、三十代半ばに韓国で仕事をしたときに買った、蝶々の反射板のついた燭台である。ローソクの焔がゆれると、背後の蝶々の影が壁にゆらめくという優れ物だ。

 次に好きなのは、北京で買った子供の燭台で、小さな油皿を腹掛けをした幼な児が両手を高くあげて支えている。一生懸命頑張っている顔つきが可愛らしい。

 イスタンブールで照明学会の会議に出たときに、バザールで手に入れたラクダの燭台は独特である。全長八センチ位の小さなものだが、背中の鞍の部分が開いてそこから油を注ぐ。頭の上に灯芯が出ていて、火が灯る。

 最も古い年代のものは、ローマ時代の灯具で、赤味がかった素焼きの壺のようなものである。持ち手の反対側には油を注ぎ灯芯を入れて火が灯る注ぎ口のような形の突起がついている。ローマ時代には、富裕層の居間でこんな灯具が沢山灯されていたという。八〇年代にパリをよく訪れていた時、リボリ通りの骨董屋で買ったもので、立派な証明書がついて年代が記されているが、真偽の程はわからない。

 

ガラクタとして
処分されるのは忍びない

 日本の灯具にも、優れたものがいくつもある。どこで手に入れたのか忘れてしまったが、江戸時代から明治まで地方の農家で使われていた、通称「たんころ」と呼ぶ小さな灯具がある。直径五センチ程度、高さも八センチ位の掌に乗るような小さなもので、ヤカンを小さくしたような形である。ずん胴の上にフタがあり、持ち手がついていて使い勝手がよい。一度、油を胴の中に入れて、蓋の中心に灯芯を通して灯してみたら、実に気持ちよく火が灯る。白い磁器製で、形もよい。

 まだまだ書き出すと次々と、灯具達を買った時の事が、想い出と共に甦って来る。

 これらの灯具はどうしたらよいのかと、最近私は少々悩んでいる。一度ちゃんと整理して、せめて写真付きの台帳でも作って、嫁入り先を考えてあげないといけないのではないか。

 ガラクタとして処分されてしまわない前に、出来れば一度、全品を飾って火を灯してみたい。親しい友人達を招いて、明かりを見ながらワインを飲む会を開いたら楽しいだろうと夢想している。

 


いしい もとこ
照明デザイナー。東京藝術大学美術学部卒業。フィンランド、ドイツの照明設計事務所勤務後、石井幹子デザイン事務所設立。国内では東京タワー、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジ、函館市や倉敷市の景観照明、白川郷合掌住宅、創エネ・あかりパーク、歌舞伎座ライトアップほか。海外作品では、<日仏交流150周年記念プロジェクト>パリ・ラ・セーヌ、ブダペスト・エリザベート橋ライトアップ、<日独交流150周年記念イベント>ベルリン・平和の光のメッセージ、「パリ・MAISON&OBJET」特別提示、日本・スイス国交樹立150周年記念光イベント<TRANJS>ほか。2000年紫綬褒章を受章。東京オリンピック競技大会組織委員会顧問。作品集「光時空」「光未来」。著書「光が照らす未来─照明デザインの仕事」、「LOVE THE LUGHT、LOVE THE LIFE 時空を超える光を創る」「新・陰翳礼讃」ほか。

2015年10月1日 Vol.25より
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