21.02.16 update

可愛い灯具の落ち着く先

私の生前整理 2015年10月1日号より

文=石井幹子
照明デザイナー

見わたせば愛着がある
旅先で手に入れた古灯具達

今迄、沢山の照明作品を創ってきた。東京タワー、レインボーブリッジ、浅草寺や函館市、倉敷市等々。そういった明かりは、デザインが終えて現地で完成した後は、私の手を離れ大勢の人々のものになる。私の手許に残るのは、スケッチや図面等で、私自身はあまり執着がない。

 改めて私が残す大切なものは何かと考えた時、ある、ある! 旅先で折につけ買い集めた古灯具達である。きちんと台帳につけて整理したことはないけれど、多分百点近くにはなるだろうか。

 その中でも何点かは特に愛着がある。まず。、三十代半ばに韓国で仕事をしたときに買った、蝶々の反射板のついた燭台である。ローソクの焔がゆれると、背後の蝶々の影が壁にゆらめくという優れ物だ。

 次に好きなのは、北京で買った子供の燭台で、小さな油皿を腹掛けをした幼な児が両手を高くあげて支えている。一生懸命頑張っている顔つきが可愛らしい。

 イスタンブールで照明学会の会議に出たときに、バザールで手に入れたラクダの燭台は独特である。全長八センチ位の小さなものだが、背中の鞍の部分が開いてそこから油を注ぐ。頭の上に灯芯が出ていて、火が灯る。

 最も古い年代のものは、ローマ時代の灯具で、赤味がかった素焼きの壺のようなものである。持ち手の反対側には油を注ぎ灯芯を入れて火が灯る注ぎ口のような形の突起がついている。ローマ時代には、富裕層の居間でこんな灯具が沢山灯されていたという。八〇年代にパリをよく訪れていた時、リボリ通りの骨董屋で買ったもので、立派な証明書がついて年代が記されているが、真偽の程はわからない。

 

ガラクタとして
処分されるのは忍びない

 日本の灯具にも、優れたものがいくつもある。どこで手に入れたのか忘れてしまったが、江戸時代から明治まで地方の農家で使われていた、通称「たんころ」と呼ぶ小さな灯具がある。直径五センチ程度、高さも八センチ位の掌に乗るような小さなもので、ヤカンを小さくしたような形である。ずん胴の上にフタがあり、持ち手がついていて使い勝手がよい。一度、油を胴の中に入れて、蓋の中心に灯芯を通して灯してみたら、実に気持ちよく火が灯る。白い磁器製で、形もよい。

 まだまだ書き出すと次々と、灯具達を買った時の事が、想い出と共に甦って来る。

 これらの灯具はどうしたらよいのかと、最近私は少々悩んでいる。一度ちゃんと整理して、せめて写真付きの台帳でも作って、嫁入り先を考えてあげないといけないのではないか。

 ガラクタとして処分されてしまわない前に、出来れば一度、全品を飾って火を灯してみたい。親しい友人達を招いて、明かりを見ながらワインを飲む会を開いたら楽しいだろうと夢想している。

 

いしい もとこ
照明デザイナー。東京藝術大学美術学部卒業。フィンランド、ドイツの照明設計事務所勤務後、石井幹子デザイン事務所設立。国内では東京タワー、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジ、函館市や倉敷市の景観照明、白川郷合掌住宅、創エネ・あかりパーク、歌舞伎座ライトアップほか。海外作品では、<日仏交流150周年記念プロジェクト>パリ・ラ・セーヌ、ブダペスト・エリザベート橋ライトアップ、<日独交流150周年記念イベント>ベルリン・平和の光のメッセージ、「パリ・MAISON&OBJET」特別提示、日本・スイス国交樹立150周年記念光イベント<TRANJS>ほか。2000年紫綬褒章を受章。東京オリンピック競技大会組織委員会顧問。作品集「光時空」「光未来」。著書「光が照らす未来─照明デザインの仕事」、「LOVE THE LUGHT、LOVE THE LIFE 時空を超える光を創る」「新・陰翳礼讃」ほか。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.07.27
    泉屋博古館東京「昭和モダーン モザイクのいろどり ...

    応募〆切:8月27日(火)

  • 2024.07.25
    3度目の挑戦で俳優座養成所に合格した田中邦衛は、『...

    大きな垂れ目と、巻き舌の話し方が独特だった

  • 2024.07.25
    夜明けのコーヒー、二人で飲もう…夏が来ると思い出す...

    作詞・岩谷時子、作曲・いずみたくの名曲

  • 2024.07.22
    昭和39年、純愛ドラマの先駆けとなった東芝日曜劇場...

    純愛ドラマ「愛と死をみつめて」のミコ役でトップ・スター

  • 2024.07.18
    ちあきなおみ版が複数のCMに起用されスタンダード・...

    永六輔と中村八大の「六・八コンビ」による〝黒い〟シリーズ第2弾

  • 2024.07.17
    老いが追いかけてくる ─萩原 朔美の日々   

    第19回 キジュからの現場報告

  • 2024.07.17
    [ロマンスカーミュージアム]の夏休みイベントは親子...

    7月17日(水)から

  • 2024.07.17
    <自然災害から身を守るPart2> 大型台風、暴風...

    大型台風、暴風の季節に備えて

  • 2024.07.16
    世界中の映画祭を席巻した、メキシコの新鋭監督の『夏...

    応募〆切:8月4日(日)

  • 2024.07.16
    山梨県立文学館開館35周年の特設展は「文学はおいし...

    7月13日(土)~8月25日(日)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!