20.12.27 update

やっぱり気になるご先祖様

文=室井 滋
女優

私の生前整理 2013年7月1日号より


生涯で最初に手にした
大きな買い物

 バリバリのおばさんではあるが、五十路を謳歌している私にとって〝生前整理〟は、まだそれほど差し迫ったものではない。

 それでも時折、何かの拍子に頭の端っこに引っかかってくることがある。〝お墓〟のことである。

 私は富山県の田舎町の出身で、墓も仏壇も地元にある。富山は昔から真宗王国と呼ばれる程、浄土真宗の寺や檀家が多い町で、うちもそれに洩(も)れない。おまけに私で十代目となかなか古い家柄で、過去には寺の檀家総代を務めたこともあったらしい。よって、うちの墓は寺のお御堂(みどう)のすぐ横、寺自体の大きな墓の横に現在もあるのだが……。

 実は私が生涯で最初にした大きな買い物というのが、この墓なのである。

 あれは女優としての生計がようやく立ち始めた頃のこと。大手化粧品メーカーとCM契約をし、いつもと桁違いのお金が銀行に振り込まれた直後だった。

 田舎の伯母から、「シゲちゃん大変! 夕べの強風であんたん家(ち)()の墓石が崩れ落ちたがよ。だいぶ古かったもんね。伯母ちゃん助けたげっから、すぐに修繕されよ。早くせんとバチあたっちゃよ」という連絡が入った。

 両親はとうに離婚し、頼みの父や祖母も私の大学時代に他界し、室井家は私一人っきり。これはどう考えても室井家先祖一同が通帳の入金を待ち、踏んばり、そして“ついに!”だったのではと。私には思えて仕方なかった。それゆえその大金で、私は新しく墓を建て替えたのだった。

ご先祖様が
守ってくれている

 お世話になった墓石屋さんから、「お若いのに偉いね。きっとご先祖様が守ってくたはれるちゃ」と言ってもらった通り、それ以降の私の仕事には、自分の実力以上のチャンスが訪れた。

 大きな怪我や病気もなく今日まで来れたのは(まさ)(に父達先祖代々のお陰と日々感謝している。

 いや、それどころか自分が建てた墓に皆が眠っていると思うと、ついつい(しの)(びたくなって、私はずっと月に一度帰省しているのだ。

 つまり、今のところ、私が墓りをしっかりやっているわけだが、問題は私が死んだ後のことである。

 私には長年共に暮らすパートナーがいるが子供はいない。室井家は本家で、すでに分家も娘達が嫁ぎ、跡取りがいない状態なのだ。

 少子化の一途をたどる我が国に、同じ悩みをかかえる人はさぞかしと思うが、それにしても一体どうしたら良いのだろう。

「私はいいの。誰もお参り来てくんなくっても……。でも、可哀想! お父さん、お兄ちゃん、じいちゃん、ばあちゃんも……。お盆やお彼岸ぐらい誰かお花を手向(たむ)(けてくんなきゃ~」

 こうなったら頑張って、私自身があと半世紀生きて墓守りするっきゃないか……。

 いっこうに答えは出ず、堂堂回りの行き着く先は、いつも決まってそんなところなのである。

もろい しげる
富山県出身。早稲田大学在学中に‘81年映画「風の歌を聴け」でデビュー。映画「居酒屋ゆうれい」「のど自慢」「OUT」「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」などで数多くの映画賞を受賞。NHK Eテレで放送中の「俳句さく咲く!」(第4日曜6:35~7:00)に出演。また、今夏発刊予定の絵本『ウリオ』(世界文化社)の他、『ドレスよりハウス 家を建てて一人前!』(マガジンハウス)、文庫『マーキングブルース』(メディアファクトリー)、『すっぴん魂大全 紅饅頭/白饅頭』(文藝春秋)など著書多数。現在、全国各地で『しげちゃん』絵本ライブを開催中。

映画は死なず

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