大事にしてきた本を処分する気持

私の生前整理 2015年7月1日号より

文=南 伸坊
イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト

いろんなモノがたくさん溜まって……

 実は、いままさに「生前整理」を始めたところです。もっとも私は「死後」のことは考えてないので、「生前」て意識はあまりありません。

 もともと先のことは考えられないほうで、それで、思えばいろいろ失敗してきたと思います。いま、それを語りだせばキリがないのでしませんが、ともかく、現在67才、この6月が終わる頃には68才です。

 いろんなモノが沢山溜まっています。特段大事にとっておいたというわけでもないけれども、とりあえず、と思ってダンボール箱につっこんでしまったモノが、あっという間に5年6年、7年8年、9年10年なんて、かんたんに経ってしまう。

 30年前、インドのカルカッタで買った、セルロイドの粗末な人形なんて、或いはものすごく貴重になっているかもしれない。20年前に150円くらいで買った、ベニスのゴンドラのガラス細工を、もう一度買おうとすれば、それはもう世界中をさがしてもないでしょう。

 ボクの持っている、時を経て価値が出たかもしれないモノなんて、それぐらいで、いずれ、ガラクタばっかりです。

 もっとも多いのは、本ですが、古本屋さんに毎回、ダンボールで5箱6箱と売っても、売っても、まだ残ります。

 そのたびに決意して、もう処分しよう! と思った本を、なかなか処分できない。

 読んで面白かった本は、大丈夫なんです。一度は頭に入って、そのときなんらかの痕跡が残ってる。これは案外あっさり処分できます。

 処分できないのは「いつか読もう」として、ずっと読んでいない本、見栄を張って買ってはみたがなかなか歯が立たないでいる本、そんな本がいくらもある。

整理後の開放感は
自分が変わる快感か

 

 ところが先日、若い頃に買った全集を思い切って処分してしまったら、おもしろいことに気がついた。全集は「稲垣足穂大全」というので、かれこれ46年、ずーっと持ちつづけてきた。

 私は稲垣足穂の『一千一秒物語』を殊に好きで、この巻だけを、何度も読んでいるけれども、ほかの巻は「いつか読もう」として、そのまま46年の歳月が流れてしまったというわけです。

 それを思いきって、全巻売ってしまった。すると、少しだけ、ツマがよく、服を捨てて「スッキリした」「気持よかった」と言っていた気持が理解できた気がした。

 私にとって、とても大事なものと思っていた本を、売ってしまったわけですが、これがなんだか妙な、解放感があったというのは、一体どういうことなんだろう?

 いまおそるおそる、いままでずっと大事にしてきた本を、大事な順にすっぱり売ってしまおうか、と考えています。

 この気持よさは、自分を新らしくする気持よさじゃないか? 自分が変わる、変わってしまうことの快感なのではないか? と考えて。

みなみ しんぼう
1947年東京生まれ、イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。 著書に『のんき図画』(青林工藝舎)、『装丁/南伸坊』(フレーベル館)、『本人の人々』(マガジンハウス)、『歴史上の本人』(朝日文庫)、『笑う茶碗』『狸の夫婦』(筑摩書房)、『黄昏』(糸井重里と共著、東京糸井重里事務所)など多数。

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