18.03.29 update

「遺品にしておくわ…」

私の生前整理 2018年4月1日号より

文=上野千鶴子
(社会学者)

女友だちとの遠慮会釈ないやりとり

 おしゃれな女友だちが、周りに多い。 気の利いたものを身につけていると、 ただちに「それ、いいわね」と反応が来る。それに続けて「気に入ったわ、次はわたしにね」と来る。遠慮会釈なく「それ、しばらく着てていいわ」とのたまうお方もいる。ときどき「女遊び」と称して、お洋服の交換会やリサイクル市などをやっていたので、いずれ飽きたら放出してもらえるものと思っているらしい。

 美しいもの、きれいなもの、かわいいものが好きだ。それがキライな女はいないと思う。仕事が世の中の問題や矛盾を暴き立てる社会学という性格のわるい専門なので、なおさらなのかもしれない。 美しいもの、きれいなものを身につけるとき、女に生まれてよかった、と思う。「だから、女は…」という手合いには、くやしかったらキミたちも身を飾ってみたまえ、と言いたい。人類が身を飾ってこなかった歴史はないのだから、女が男なみに身なりにかわまなくなるよりは、男が女なみに身なりに気をつけるようになるほうが、 ずっと文明的だし、そちらの可能性が高い。

「それ、いいわね。ちょうだい」 に、最近、新しい返し方を見つけた。「いいわよ、遺品にしておくわね」 …だから、わたしが早く死ぬように祈ってね、と言いたいわけではない。


 

あの人へ、遺品はあの世からの手紙

 このところ知友が亡くなることが増えた。しばらく経ってから、ご遺族から「故人の遺品です」と送られてくることがある。時計や万年筆のような高価な品でなくても、故人が愛用していたこまごましたアクセサリーをセットにして送ってくださる方もある。傘やクッションを箱に詰めて送ってくださった方もあった。自分の趣味でなくても、大胆な猫柄のクッションや、あざやかなカラーの折りたた み傘などに、「そういえば、彼女、こういうのが好きだったわねえ。それによく似合ったわ」と故人を偲ぶ。そういう品のあれこれを身につけて外出すると、その日一日、故人がわたしを守ってくれるような気がする。遺品は護符でもあるのだ。

 わたしは遺言状を書いて、遺言執行人も指名してある。遺品の整理はその方に任せてある。だが、いろいろある遺品を、関係者のそれぞれに振り分けて送る作業はたいへんだろう。それに人の好き好きもある。そんなことなら、「あれが好き」と気に入ってくれた友人に、この品はAさんに、あの品はBさんに、とあらかじ めリストを作っておけばよい。その人の好みやたたずまい、暮らしの流儀などを考えながら選んだ品が、亡くなってからご本人のもとに届けば、きっと「あの世 からの手紙」だと感じてくれるだろう。 「あら、覚えててくれたのね」と。

 断捨離も整理もできないし、したくない。娘もいないのに、あまたの身の廻り品を残してあの世に旅立つ。たいしたものはないが、その全部をゴミにしたくはない。そのくらいの処理を友人に頼んでも、罰は当たるまい。

 さて、そろそろリストを作ろうかしら。

うえの ちづこ
社会学者。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。1995年から2011年3月まで東京大学大学院人文社会系研究教授。11年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。高齢者の介護問題にも関わる。『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)で94年サントリー学芸賞、2011 年度朝日賞受賞。『みんな「おひとりさま」』(青灯社)、『ニッポンが変わる、女が変える』(中央公論新社)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版)、『ひとりの午後に』(NHK出版)他多数の著書がある。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.28
    小田急電鉄の子育て応援マスコットキャラクター「もこ...

    6月4日から運行開始

  • 2024.05.28
    泉屋博古館東京 企画展「歌と物語の絵 ─雅やかな...

    6月1日(土)~7月21日(日)

  • 2024.05.27
    夏本番! ゲリラ豪雨の浸水を防いでくれる止水製品を...

    都市に起こる「内水氾濫」とは?

  • 2024.05.27
    駅前に佇む樹

    【スマホ散歩】孤高に聳え立つ

  • 2024.05.27
    仲代達矢と双璧をなす「俳優座」の逸材、平幹二朗は演...

    スケールの多い演技で、数々の賞を受賞

  • 2024.05.24
    吉永小百合とのコンビによる純愛路線映画『泥だらけの...

    日活青春スターとして忘れられない存在

  • 2024.05.24
    バブル期からの拝金主義で「他人を思いやることの大切...

    6月14日(金)全国公開

  • 2024.05.23
    イギリス新作映画初登場でナンバーワンの大ヒット!ま...

    6月7日(金)全国公開

  • 2024.05.23
    ホキ美術館「作家の視線─ 過去と現在、そして…」観...

    応募〆切:6月30日(日)

  • 2024.05.23
    明治期の数少ない近代洋風建築の「フェリーチェガーデ...

    6月1日(土)リニューアルオープン

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!