21.03.29 update

心のあり方を整理整頓し、神様の元へ大きくジャンプ!

文=滝田 栄
俳優

私の生前整理 2016年1月1日号より

真っ先に処分を考えた
東京の家と思い出の山の家

 生前整理というタイトルのエッセイの依頼と聞いて、思わずクスリと笑った。僕もそういう年になったのか?! と。でも、いずれ必要だし、なんだか面白そうなので、頭がかってに回転し始めた。

 昨年、末の娘が結婚して、三人の子供達も一応全員自立してくれた。子供達を育て、また自分が仕事をするために用意した東京の家は、家内と二人になると、広過ぎると感じたり、いや場所的にも静かで便利だと感じたり、その日のコンディションで感じ方が違ったりする。

 春から秋を過ごす山の家は、かなりの広さがあって、五十代迄は、草刈りも薪割りも、畑仕事も雪かきも、嬉々として楽しんできたのだが、最近は骨である。僕は、東京の家も山の家も整理して、どこか魚が美味い、冬暖かな海岸にでも夫婦二人で暮らせるコンパクトな家を持ちたいと考えたりする。

 家内はカタし魔である。家を売るにしろ引っ越すにしろ、いつどう成っても良いように、生理整頓しておきましょうと、いつも掃除をしてくれる。最初はうるさいと思ったが、最近は感謝している。捨てられずにいた僕の勉強部屋の書籍も、一冊ずつ手に取ってみると、今では全く必要のない物だったりする事が分かったりして、結局、殆ど段ボールにつめて玄関に山積みになり、紙くずになるか古本屋行きを待っている。

心さわやかに、
新たなステージに旅立つこと

 山の家は、子供達と三十年以上も過ごした想い出の家だが、何せ冬が寒過ぎる。マイナス二十度になると、膝や腰の古傷が痛んだりするのだが、家を出た子供達は、山の家は取っておいて欲しいと言う。駆け回った自然の感触が懐かしいのだろう。子供が出来たら自分達がしてきたように一緒に自然の中で遊びたいのかもしれない。

 東京の家は東京の家で、今も仕事をするには実に便利な立地で、海外に出た子供も含め、家族が集結するのは必要な場所であることも確かなのだ。先ずは、余生のライフスタイルをきちんとイメージしてかかろうと思うのだが、今日、別に困った事が有る訳ではないので、あわてて動き出す気がしない。

 いつだったか、死んだら自分の骨をどうしようと、考えたことがある。墓などという狭い場所に入れられるのはいやだと思った。夫婦のどちらかが先に逝くかわからないけれど、縁あって一緒に生きてきた戦友のような関係だし、僕達はお釈迦様が大好きだから、「死んだらお母さんの骨と混ぜこぜにして、お釈迦様ゆかりのインドのガンジス川にでも流して欲しい」と、息子には話してある。出来たらインドへの旅費くらいは何とかしておく。行けなければ、東京湾でも良いか? と、笑っている。

 物への執着は全くない。ただ、心さわやかに、にっこり笑って新たなステージへ出発する準備だ。次の旅こそは迷いのない楽しく素晴らしい旅にしたい。だから、心の在り方をしっかり整理整頓すること。今生の失敗過ちをしっかり反省懺悔して、仏様の居る大きな宇宙へジャンプ! これが死ぬ事、僕にとっての生前整理ですかね。

たきた さかえ
1950年、千葉県生まれ。文学座養成所から劇団四季を経て独立、現在に至る。テレビでは『草燃える』『なっちゃんの写真館』『マリコ』『徳川家康』など多数出演。また『料理バンザイ』の司会を20年間つとめた。舞台『レ・ミゼラブル』主演ジャン・バルジャンを初演より14年間演じる。2006年映画『不撓不屈』で主演。公益法人プランジャパン評議員。ベトナムやインドのムンバイ、ニューデリーのスラムを訪問。13年東日本大震災の被災者の供養のため地蔵菩薩を彫り宮城県気仙沼市に[気仙沼みちびき地蔵堂]を建立。15年4月東北福祉大学客員教授に就任。俳優の仕事以外に仏像制作、仏教の研究、講演、執筆活動等。著書に『滝田栄仏像を彫る』などがある。

映画は死なず

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