「山守さん、弾はまだ残っとるがよう……」、映画『仁義なき戦い』のラストシーンの名台詞をご記憶だろうか。親分子分の盃を交わしたが、小心でケチな親分(金子信雄)に愛想を尽かした菅原文太の一言である。まさに、「なんど負けても弾はまだ残っている」と思い続けて81年を生きた俳優・菅原文太の評伝『仁義なき戦い 菅原文太伝』(松田美智子・著)が、昭和を生きた男たちに熱いメッセージを送ってくれる。菅原文太というスターの出自、両親の離婚、薄い縁、ドヤ暮らし、下積み、スターへの道……、一人の人間の生涯を彼に触れた人々の証言と膨大な資料を積み上げ組み立てられたノンフィクションである。
思えば、年齢というだけでなく鶴田浩二、高倉健といった先を走るスターの後追いの、ちょっと暗く屈折した文太は二番手のスターといえるだろう。「飢餓俳優」と自称した菅原文太には、華やかさはなく不器用な人間臭さが昭和のファンにとっては身近に感じられたのかも知れない。その根底に何があるのか。かつて自らも女優として活動した松田美智子という作家の執拗なまでの追究心に圧倒されながら、初めて詳らかにされた興味深い一書である。
『仁義なき戦い 菅原文太伝』
2021年6月24日発売(新潮社・刊/税込予価1,870円/304頁)