アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

~60年以上にわたる創造の全貌「GENKYO 横尾忠則」に寄せて~

4月まで愛知県美術館で開催され、過去最大規模の横尾忠則展として多くのアートファンを魅了し話題を呼んだ「GENKYO 横尾忠則」がスケールアップし、横尾さん自身の総監修により構成も新たに、いよいよ7月17日より東京都現代美術館で開催される。絵画を中心に、初期グラフィック作品を加えた500点以上の作品が出品され、横尾芸術の全貌に触れることができる。昨年から今年にかけてアトリエにこもって制作された20点以上の新作も、今回の東京展で初公開されることになっている。
エッセイスト、映像作家など、横尾さん同様多方面で活躍する萩原朔美さんは、在籍していた寺山修司主宰の演劇実験室・天井棧敷で、舞台美術やポスター制作を担当していた横尾さんと出会い旧知の間柄。
萩原さんは、「横尾作品からはスリリングな味わいが生まれ、それが最大の魅力」と言う。さらに、「横尾さんは、表現の経歴を自在に飛翔している」とも横尾作品を解析する。
私たちは作品に囲まれたとき、豊かで奔放な横尾さんのイメージの世界に引き込まれ、横尾作品が立証する「過去はいつも新しく」を実感することになるだろう。

 垂直に屹立する魅力

   文=萩原 朔美

 大抵、アーティストの個展は、まず、入口で示された履歴を読み、会場の時系列に沿って展示されている、あるいはテーマや手法や形式などに纏められた作品群を観て、その全貌を知ったような気分に浸りながら会場を後にする。

 それは、作品の変容を通して作者の全体像のようなものを理解した気分にさせる仕組みである。

 ところが、横尾忠則展に関しては、この仕組みが成り立たないのではないだろか。私はそう睨んでいる。 

 というのは、横尾さんの表現の経歴が、初めから時系列を逸脱して自在に飛翔し、物語として編纂されることから逃亡し続けて居るからに他ならない。

横尾忠則《T+Y自画像》2018年個人蔵
★東京展のメインビジュアル
荒々しい筆触の巨大な自画像は、力強いとともに内省的である。最後に加えられた首吊り綱が印象的である。

「詩というのは歴史性に対して垂直に立っている」

 と稲垣足穂が言ったけれど、横尾さんの表現も詩とまったく同じだ。系譜に対して垂直に輝いているから、物語として整理出来ないのである。

 そのことは、芸術が常にイコンがイデアに先行していることの証左である。何よりも、身体が先行し、時に身体が自分をも乗り越えてしまう不思議。その不思議こそが、横尾さんの作品に秘められた魅力の源泉であり「原郷」なのである。

 しかし、多くの表現者は、あるときを境にして自己模倣を始めてしまう事がある。ここを乗り越えて新たな展開を生み出すのは至難だ。

 むかし、ある画家の個展の会場で、美術評論家の東野芳明さんが「同じスタイルを繰り返したら芸術は終わりだ」と言って、憤然と会場を出てしまった事があった。

 普段温厚な人が豹変したので、その場に居合せた私には忘れられない出来事だった。

横尾忠則《運命》1997年 東京都現代美術館
Tadanori Yokoo, Destiny, 1997 Collection of Museum of Contemporary Art Tokyo
幼少期、兵庫の西脇で暮していた横尾は、山の向こうにある明石や神戸の街が空襲を受け、空が真っ赤に染まっているのを見ていたという。それが、赤の世界を死と結びつける原点だった。

 横尾さんは自己模倣とは真逆のアプローチをし続ける作家だ。方法論的に自己模倣などあり得ない姿勢を取っているからなのだ。どこへ行くか分からないのではない。始めからどこかにも向かってなど居ないのだ。完成に向かって作品を作っているのではない。完成に向かっていないのだから、すべては未完のまま提示されてある。という事ではない。

 横尾さんの表現は、未完ではなく、初めから非完なのだ。非完の状態をフリーズさせたもの。それが作品なのである。

 だから、スリリングな味わいを生み、作品の最大の魅力になっているのである。

横尾忠則《実験報告》1996年 東京都現代美術館
Tadanori Yokoo, Experimental Report, 1996 Collection of Museum of Contemporary Art Tokyo
描けば描くほど「絵」じゃなくなってしまうと感じられた作品は、モティーフを描き加えた順番通りにナンバーを打つことで完成したという。

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サントリー美術館様
森美術館

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