「九龍城砦」は19世紀初頭に海賊の襲撃に対抗する軍事要塞として作られ、1994年に完全撤去されるまでの180年余りの間、独特のコミュニティが存在していた。時代の変遷とともに統治権が曖昧になり、戦後の混乱で家を失った人々や中国からの難民が流入すると、事実上無法地帯として香港の暗黒面を象徴する存在になった。
本作の舞台は、1980年代の九龍城砦。約5000万香港ドル(日本円で約9億円)を投じた圧巻の九龍城砦のセットの中で、日本の『仁義なき戦い』を彷彿させるような抗争が繰り広げられる。
香港に密航してきた若者チャン・ロッグワンは、地下格闘技でお金を稼ぎ、偽の身分証を手に入れようとするが、騙されて逃亡する中で九龍城砦に迷い込む。そこで、九龍城砦の伝説的リーダーのロン・ギュンフォンやその弟子たちと出会い、深い友情を育んでいく。ところがチャンは、黒社会の人物で「殺人王」と恐れられていたチャン・ジムの息子だった。そのことを知らずに生きてきたチャンは父の因縁で、恨みを持つ別の組織の者たちの攻撃を受ける。チャンは自分を受け入れてくれた親分のロンのため仲間たちと命がけの戦いに挑む──
本作のプロデューサーのジョン・チェンは、3歳の時に家族とともに九龍城砦に引っ越してきて、狭い部屋に8人で暮らした経験があった。ジョンにとっては〝怖い所〟ではなく、一種の「安らぎ」のある場所だった。学校や教会が存在し、教育を受ける場所もあった。子供たちは元気に遊び、人々は助け合い懸命に生きている姿が焼き付いていた。アクションシーンがほとんどを占めるのだが、庶民生活の日常からは、そこで逞しく生きる生命力が印象的だ。音楽は作曲家の川井憲次が担当しており、劇中には日本の80年代流行った「ダンシングヒーロー」をバックで踊る若者も出て来たし、吉川晃司の「モニカ」も流れて来た。80年代の日本のヒット曲は、海を越えて九龍でも親しまれたようだ。
香港映画といえば、伝説のアクションスター、ブルース・リーやコミカルな要素を入れたジャッキー・チェンを思い出すが、本作でも、主演のルイス・クーを筆頭に、香港映画界のレジェンド、サモ・ハン、アーロン・クオック、リッチー・レンといった豪華俳優陣に加え、若手実力派が多数出演。第97回アカデミー賞国際長編映画賞の香港代表作品に選出され、第77回カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーンで初上映されると熱狂的な拍手喝采を浴びたという。
製作には8年の歳月が費やされた。香港の歴史、文化、映画スタッフたちの情熱が詰まったスケールの大きな作品である。
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
1月17日(金)新宿バルト9ほか全国劇場にて公開
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配給:クロックワークス