20.11.09 update

おばの遺品整理で学んだこと

文=坂東眞理子
昭和女子大学学長

私の生前整理 2012年7月1日号より


遺された厖大な品々を前に

 昨年おばが92歳でなくなった。子供のいない人だったので、私が代表相続人となり、いろいろの手続きをしたり、整理をし、貴重な経験をすることができた。

 おばの夫は2年前になくなり、その際すべての財産はおばが相続すると遺言があったので、預貯金も不動産もみなおばが相続した。おばは遺言を残さなかったので、預金の半分を私のいとこたちで相続し、預金の半分をおじのおいたちに贈与した。結果的に不動産は夫婦の名前をつけた地域福祉施設として使っていただけることになったが、その前に家に残された遺品を整理する仕事があった。

 2人暮らしだったが、30年以上同じ家に住み続けていたので、たくさんのものが残されていた。生前母がおばの家は収納スペースがたくさんあってうらやましいといっていたとおり、納戸、押入れ、天袋など収納スペースがたくさん在って、それぞれにものがぎっしりと詰め込まれていた。

 お茶とお花の師範をしていたのでその関係の道具類、おじのゴルフの優勝のトロフィーや記念品、使われなかった漆器や陶磁器、たくさんの引き出物や香典返しや内祝いの品々、もちろん装身具、着物帯などなど。それぞれ高価な質のよいものばかりだが、思い出の記念の品はとっておくにしても、ほとんどのものは古道具屋さんに二束三文で引き取ってもらい、残りは福祉団体のバザーに寄付せざるを得なかった。私の祖母が末娘であるおばの結婚に当たって用意した紋付や訪問着や大島つむぎなどもほとんどそっくり残っていた。私がもう少し器用なら洋服に仕立て直したり、パッチワークに使ったり、いろいろ活用の方法があるだろうが、プロに頼むとかなり高価な割に着る機会は限られるので手放さざるを得なかった。

生前整理、覚悟のチェックポイント

 この仕事はもったいないと惜しむ気持ち、申し訳ないと罪悪感に責められ、なかなかつらいものがあった。それぞれのものはおばにいとおしまれることでその役割を果たしたのだから、手放すことを申し訳ながることはないと思って自分を慰めたが、それでも憂鬱だった。

 この経験から学んだことは以下の事である。

 ①自分が好きで使った「もの」は、他人には使い古してくたびれたガラクタにしかすぎない。

 ②自分の好みでないものは、どれだけ高価で質が高くともできるだけ早く、その品を気に入ってくれそうな人に贈ること。

 ③消耗品、ナマモノだけでなくタオルや食器や道具もモノには賞味期限があり、古くなると価値が落ちるので早く使う。

 ④思い出の品、由緒ある品は自分でそのいわれを次の世代に伝えないと、わからなくなる。

 ⑤高価でいいなと思うものも大切に収納しないでできるだけ使うこと。そのためにも収納場所は広すぎない方がよい。収納場所が少ないといや応なく処分せざるを得なくなる。

 自分で生活できなくなる2~3年前、その時期を見極めるのは難しいが、メドとして平均寿命をすぎたら、今までの住居を引き払い、ケア付きの施設やバリアフリーの小さい住居に移り、それを機会に生前整理をするべきかな、と思う。

ばんどう まりこ
昭和女子大学学長。富山県生まれ。1969年東京大学卒業、総理府入省、青少年対策本部、婦人問題担当室、老人対策室、内閣総理大臣官房副参事、統計局消費統計課長などを経て男女共同参画室長。95年埼玉県副知事就任。ブリスベン総領事、内閣男女共同参画局長を経て、04年4月から昭和女子大学大学院教授、女性文化研究所長、05年昭和女子大学副学長、07年から現職。主な著書に『図説 世界の中の日本の暮らし』(大蔵省印刷局)『米国きゃりあうーまん事情』(東洋経済新報社)『女性の品格』『親の品格』『女性の幸福(仕事編)』(PHP新書)『錆びない生き方』(講談社)『日本人の美質』(ベスト新書)など多数。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!