萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第19回 2021年11月30日
散歩している時、ほとんど下ばかり見続けている。無自覚だったのだけれど、撮った写真を分類して分かった。画像の半分以上が路面なのだ。道路に引かれた白線。止まれの表示。境界標。自分の影。横断歩道の白線。自転車マーク等、みんな道路上に展開しているものだらけだ。私は、身長分の高さの三脚にカメラをセットして、レンズを真下に向けっぱなしで撮影していた事になる。首が痛くなる筈だ。
そこで、今度は上を向いて見えるものを撮る事にしてみた。電線。マンション屋上のタンク。使わなくなったTVアンテナ。電灯。数は少ないけれど、撮りたくなるものは発見出来た。
そうなのだ。撮影しながらの散歩って、顔をうんうんとうなずきながら上下し続ける事なのだ。(笑)
私は毎日歩きながら、
「なあるほど!そう言う事なんですか世界は。うんうん!」
とつぶやき、何か凄い事でも発見したかのように、顔を上下して歩いていたのである。まあ、右と左を交互に見ながら歩くよりはいいかなあ、です。左右に顔ふりつづけたら、いやいや、ダメダメ、と否定しながら歩くことになってしまうから。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。