散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第36回 2023年4月26日
たまたま、駅までの道のりで誰一人出会わない時がある。ホームにも人が居ない。電車が来て乗車すると、乗客は私一人だけだ。
そんな時、一瞬にして人類が滅亡し、自分だけが生き残ってしまったような白昼夢が湧き上がる。
孤独な日々。どこの家で寝ようが何を着ようが自由。欲しいものはなんでもいくらでも手に入る。誰も居ないショッピングモール。誰もいない銀行。誰も居ない遊園地。紙幣はただの紙屑。金銀宝石になんの価値もない。孤独は死と同じ。生きる楽しさは他者にあるという、そんな当たり前のことが、白昼夢のエンディングだ。
で、電車が次の駅で停車する。すると、うるさい学生の集団がドヤドヤと乗車してくるのだ。途端に、一人静かな場所で暮らしたいなあ、などと思ってしまうのである。(笑)
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。