23.05.31 update

「人を喜ばせる、幸せにする、笑顔にする」ホテルマンとして41年の幸せ

原 眞示 

株式会社 小田急リゾーツ 社長


入社間もなく掴んだホテルマンのやりがい

「人を喜ばせる、人を幸せにする、人を笑顔にする仕事に就くことが、男の本懐だろう」という叔父のひと言は忘れません。叔父の断固とした下命で、内定していた某損害保険会社の就職をお断りし、国際観光株式会社(現・株式会社小田急リゾーツ)に入社して41年になります。

 1982年(昭和57)年明け早々の1月5日、当時の小田急電鉄の社長を訪ね、私の運命が一瞬のうちに変わりました。叔父と社長は大学のバレーボール部で切磋琢磨したというご縁があったのです。しかし時すでに遅く、その年の小田急電鉄の新入社員の受け入れは締め切っていて、小田急グループの国際観光なら受け入れられる、と。箱根とも縁がなかった信州諏訪出身の私は、ホテルマンとしての人生を歩むことになったのです。

 一連の研修を終えた後、最初に配属されたのが「ハイランドホテル」でした。ここで私はホテルマンのやりがいを発見し、もっと言えば仕事の本質とは何たるかを学びました。ベルボーイから配膳サービス、客室の掃除まで現場の仕事からスタートしました。当時、ハイランドホテルには、芸能人、スポーツ選手、政治家など著名人たちが誰にも干渉されずプライベートの時間を楽しむ隠れ家のようでした。私が初めてレストランでサービスしたときは、テレビでお馴染みの女優さんがお母さまと食事をされていましたし、人気俳優の夫妻もいらっしゃいました。またあるときは、プロ野球の監督がスター選手を引き連れてホテルに来館されるような状況にも出くわしました。

 ベルボーイを担当したときは、お客様をご案内するたびに、お名前や車種や色について自分なりに開発した方法で覚える習慣を身に付けました。一度いらしたお客様の車を見つけると、「〇〇様、いらっしゃいませ」と迎えると、皆さん嬉しそうな笑顔を見せてくれるのです。当時はチップという習慣が日本にもありましたので、一カ月の給料以上のチップをいただくこともありました。ハイランドホテルのお客様は、別荘代わりにホテルを訪れるような方たちで、年4、5回もいらっしゃる方など、いわゆるリピーター率が高かったのです。そのお客さまたちにどうしたら喜んでもらえるかを考え、工夫することを覚え、それがホテルマンとしての私の財産になりました。

 その後、配属になった「山のホテル」は関東でも指折りのリゾートホテルで、ツツジやシャクナゲの庭園を見学するお客さまもたくさんいらっしゃいました。お花の開花するシーズンには一日数千人がお見えになり、その客層もまたハイランドホテルとは違いがありました。商売やマネジメントとは何たるかを学んだのは山のホテルです。もし配属先がこの逆だったらまた違ったホテルマンの道を歩んだかもしれません。

▲「箱根ハイランドホテル」は、三井財閥の総帥まで務めた團琢磨男爵の別邸だった。その後、長男の團伊能氏が「箱根ハイランドホテル」として1957年(昭和32)に開業。外務大臣を務めた藤山愛一郎氏ら政財界、著名人も多く訪れた。(写真は当時)

多様性のある楽しみ方こそ箱根の魅力

 2020年3月から、新型コロナ感染症が猛威を振るい、まさか3年も続くとは予想していませんでした。観光業界にとっては大きな痛手で、弊社も創業以来最大の危機に陥ったと言っても過言ではありません。しかし、このピンチが逆に、長い間積み残した様々な課題を解決する良い機会になり、事業構造を一新することできました。

 まずは、小田急リゾーツの本社機能を、相模大野から小田原に移しました。この移転をきっかけに、小田原、箱根湯本、仙石原、元箱根、強羅といった地域が持つ観光の魅力をそれぞれの地域の皆様と連携しながら、磨きあげていくことで地域に貢献できる企業になろうという目標ができました。

 こうした中、小田急電鉄では、「自然体験」をテーマに新たな箱根の楽しみ方を地域事業者などと共創・発信していくプロジェクト「HAKONATURE(ハコネイチャー)」を始動し、今年4月28日にプロジェクト拠点となる「HAKONATUREBASE(ハコネイチャー ベース)」を箱根湯本に開業しました。今後は、当社としても観光地箱根の魅力をワールドワイドに発信していくために、こうした施設とより連携を深めていきたいと考えています。

 コロナ禍を経て、改めて気づいたのは、日本の観光は世界から高く評価されていることです。歴史、自然、文化、食、安心安全、おもてなしの精神など、日本の観光資源は素晴らしいものが多くあります。これらの観光資源の魅力度向上に向け、地元の人たちと様々な意見交換をしています。

 昨年、小田急リゾーツの社長に就任しましたが、今思うと、ハイランドホテルで4年、山のホテルで6年、合計10年間支配人を経験する中で、徐々に社長業の準備をしていた気がします。それぞれのホテルでは自分が社長になったつもりで、あらゆる事柄を自分の責任において決め、実行するという意気込みで支配人職をまっとうしてきました。こうした心構えがなくては個人経営のホテルや旅館のオーナーに太刀打ちができないからです。現在、小田急リゾーツには、山のホテル、ハイランドホテル、はつはな、ゆとわ、HOTEL CLAD、センチュリー相模大野、ステーションホテル本厚木という7つのホテルがあります。各ホテルの個性が違うので、支配人の意見を7つの会社の社長方針として聞きながら、戦略を練っています。来年は、また違うスタイルのホテルのオープンを予定しています。

▲7つのホテルの他にも「箱根湯寮」といった日帰り温泉施設も運営している。箱根湯本から送迎バスで約3分という地にあり、露天風呂、壺風呂、サウナや貸切個室露天風呂も19室ある。手軽に温泉を楽しめるのも魅力だ。

 箱根は、文化芸術、自然、食のバランスの良い観光地です。たくさんの美術館があり、多様な温泉やホテルが存在し、バラエティーに富んでいます。箱根にいらっしゃる皆さんには、その多様性に目を向けていただくことで、何度来ても楽しい、新しい発見のある観光地ということを実感していただきたいです。(談)


はら しんじ
1959年長野県諏訪市生まれ。82年中央大学法学部卒業、国際観光(現・小田急リゾーツ)入社。02年 小田急 箱根ハイランドホテル支配人、06年小田急 山のホテル支配人、11年小田急リゾーツ取締役、21年同 専務取締役 構造改革推進、22年同 取締役社長就任、現在に至る。

映画は死なず

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