23.09.25 update

元男爵家の別邸からの流れをくむ、歴史あるホテルを愛おしまれるお客様に接して

宇山 靖之
(箱根ハイランドホテル 支配人)


 小田急 箱根ハイランドホテル(以下ハイランドホテル)に赴任して、丸二年が経ちました。この夏はやっと本来のハイランドホテルらしい賑わいが戻ってきました。昨年は、全国旅行支援のキャンペーンを使った初めてのお客様が来館されましたが、ホテル内はいつもと違うワサワサとした賑わいでした。けれどもこの夏は、ハイランドホテルを御贔屓にしてくださる家族連れのお客様が来館してくださり、コロナ禍前の夏の光景を見ることができました。働き盛りのご夫婦に芝生の上で走り回る元気なお子さん、ご一緒に祖父母様という三世代が寛ぐ姿です。久々に従業員とともに夏休みの心地よい忙しさを体験しました。

ルーツは三井財閥総帥の別邸だった

 ご承知のようにハイランドホテルは、三井財閥の総帥を務め、後に男爵となられた團琢磨氏が別邸として建築し、ご子息の伊能氏がホテルとして開業しました。1957年(昭和32)のことです。それから、現在の建物に改築し、自然と一体となった気品のある本格的なリゾートホテルに生まれか変わりました。「上品で温かなおもてなし」の精神を心掛け、創業時の團伊能氏の精神を貫いてまいりました。

 團家ゆかりのゲストから始まったホテルの評判で、文化人から俳優やスポーツ選手、政治家にも広まり、今でもその流れをくむお客様がお見えになります。赴任して初めての年は、普段の生活ではお会いできないような方たちが、同じ空間にいるという緊張した雰囲気を感じたこともありました。それに加え、決してロングステイではないけれども、2泊から3泊、定期的にお見えになるリピーターのお客様が多いこともハイランドホテルの特徴です。

 今では、ポーラ美術館、箱根ラリック美術館、箱根ガラスの森美術館などの文化施設も近くにでき、ここを拠点に出掛ける楽しみもできましたが、開業当時はそういった施設もなく、どちらかというと隠れ家的なホテルでした。ときには、半世紀ほど前の写真を傍らに思い出を語るお客様から、当時のお話をお聞きすることもあります。そういったハイランドホテルを愛しむお客様の気持ちと笑顔に励まされます。

 確かに箱根にはラグジュアリーホテルの数も増えました。けれども当館を愛おしんで、繰り返し来館してくださるようなお客様は、一朝一夕にはできないという自負があります。それに胡坐をかいていてはいけませんが、一番に大切にしていきたいと思っております。

箱根湯本駅からバスで25分ほど。御殿場ICからは車で約30分。自然豊かな仙石原の森に佇む

ホテルマンという仕事の生きがい

 私自身は、ホテルマンとして約20年間フロントでの勤務を主にしてまいりました。面白いもので、お客様と親しくなのるのは、よくないきっかけから始まることがあります。例えばお客様からのクレームに対応していくうちに、会話を重ね、結果的に親しくなるということも多いものです。ですから私はお客様との距離感を大切にしています。

 これまで小田急リゾーツが運営する「ホテル はつはな」「山のホテル」にも勤務しておりましたが、そちらのお客様が、ハイランドホテルに遊びに来てくれて、「ここにいたの!」と声をかけてくださる。そんなことがあった日は一日が楽しくなります。自分のことを覚えていてくださった方との再会は喜びの一つです。ですから私も、二度以上いらしてくださったお客様の顔と名前は覚えるように努め、レストランでもお客様の好みを覚えるといった課題を、従業員と共有しています。

中世ヨーロッパの気品が漂うラウンジ。広大な庭園を前に寛ぐことができる空間だ

 

 ハイランドホテルのあるこの一帯は、自然が豊かです。庭園に面したラウンジからは山々が近くに聳え、天気が良い日には大涌谷も見え落ち着く絶好の場所です。ホテルには約1万5千坪の庭園があります。四季折々の景色を楽しむことができますが、夏の季節ですと真っ青な芝生がありその下には小川が流れています。ここを整備して散策路にできればと考えています。現在も「フレンチジャポネ」のレストランも上質な食事時間を愉しむ場所として長年好評をいただいておりますが、さらに磨きをかけて、居心地の良いレストランタイムのひとときを過ごせるような空間をつくり、ハイランドホテルで完結できるサービスを提供したいと考えております。

本館と「森のレジデンス」2棟からなる。「森のレジデンス」には、愛犬と一緒に泊まれる 「ドッグフレンドリールーム」や、愛犬と遊ぶことのできる「ドッグラン」も備えられている。

 ハイランドホテルのもう一つのセールスポイントに、大涌谷から引き湯をした白濁の温泉があります。箱根でも珍しい硫酸塩泉の泉質ですが、お肌が滑らかになると女性に人気です。また、愛犬と過ごすことができるお部屋などもありますので、ゆったりと箱根の自然に抱かれたリゾートライフを満喫できることでしょう。

 それには、ハード面にも手を加えながら、さらに「上品で温かなおもてなしの精神」を従業員一同磨きかけていきたいと思っています。


うやま やすゆき

1974年 神奈川県生まれ。ホテル千寿閣を経て、94年小田急リゾーツ入社。「ホテルはつはな」、「山のホテル」勤務。22年箱根ハイランドホテル支配人に就任。

箱根ハイランドホテル
[住] 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原品の木940
[問] ℡.0460-84-8541

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.02
    『ヒットマン』のザヴィエ・ジャン監督の最新作『FA...

    応募〆切:5月13日(月)

  • 2024.05.02
    〝私をカンヌに連れてって〟くれたエドワード・ヤン監...

    文=河井真也

  • 2024.05.02
    人々はどうやって映画を愉しんできたのか、鎌倉市川喜...

    4月13日[土)~7月7日(日)

  • 2024.05.02
    山本リンダの「こまっちゃうナ」から「どうにもとまら...

    遠藤実のレコード会社を救ったヒット曲

  • 2024.05.01
    自分の街、がなくなった ─萩原 朔美   

    第13回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.01
    日本人デザイナーのパイオニアとして世界で活躍した髙...

    7月6日(土)~9月16日(月・祝)

  • 2024.04.30
    泉屋博古館東京 企画展「歌と物語の絵 ─雅やかな...

    応募〆切:5月27日(月)

  • 2024.04.26
    92歳の現代美術作家・三島喜美代の東京での初の個展...

    5月19日(日)~7月7日(日)

  • 2024.04.26
    中村勘九郎、七之助を中心に若手歌舞伎俳優たちが新宿...

    5月3日(金・祝)~26日(日)

  • 2024.04.26
    銀幕の大女優・浅丘ルリ子の159本の出演作の中から...

    5月13日(月)、14日(火)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!