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和菓子屋三代目の美学

文=菜の花 会長 髙橋台一

箱根彩彩 2020年4月1日号より

美術や古道具の蒐集癖は
お饅頭作りに通じた

 明治38年(1905)小田原で創業された和菓子屋の三代目の私には、なぜか幼い頃から美術や古道具に心ひかれ、気に入ると無理をしてでも手に入れてしまう性癖があります。黒田泰蔵の白磁、井上有一の書、沖縄パナリ焼きの蒐集、本の出版、絵、織物、ガラス、やきもの、古道具など。
 良いものは、いい。ホンモノは、いい。じっと見ているだけで、ホッとするものがありました。茶道の所作の美しさに魅せられ茶器や道具のおもしろさに心がひかれています。今では菓子の商売は息子に四代目を任せて、小田原の創業の地をギャラリー「うつわ菜の花」に模様替えして皆さんに鑑賞していただくことが大きな楽しみです。因みに1年間に25回ほどの展示会を催しています。
 菓子作りでもとことんこだわって、ホンモノを追求しました。明治から続いた屋号の「菓匠 光榮堂」を「和菓子 菜の花」に思い切って変えさせもらいました。同時に自分の代でホンモノの温泉饅頭を作ってやろうと思い立ったのです。ところがどっこい、私が納得できるお饅頭を作るのに大変な苦労がありました。たかが饅頭と笑われるかも知れませんが、とにかく美味しい温泉饅頭を作ろうと、良質な素材を、八方手を尽くして集めること、信頼できる生産者探しから始まりました。

「箱根のお月さま」は、ちいさな子供にも人気のお饅頭

箱根の一隅で追求した
ホンモノの味

 口にしていただくものですからまずお客様の健康に配慮しました。もちろん余分な添加物は一切無し。皮の素材は群馬近郊の小麦、沖縄の波照間産の黒糖、餡は北海道十勝の小豆、昔からいい水が出る小田原の松原神社近くの地下水を汲み上げて、岐阜産の氷砂糖(北海道産甜菜糖使用)に、沖縄産の天然の塩、それらを素材にして、じっくりと20分間飽和蒸気で蒸しあげて、しっとりと柔らかく、餡も程よい甘さに仕上がったのです。 
 19年前の3月3日、箱根湯本に「まんじゅう屋 菜の花」をオープンしましたが、爾来、箱根のお土産ナンバーワンとなり、温泉饅頭「箱根のお月さま。」は、「和菓子菜の花」の一番人気の商品になりました。お客様には新鮮でおいしいお饅頭を提供することだけを考えて、その日作って、その日のうちに食べていただこうというお饅頭の〝鮮度〟をモットーとしましたので、これだけは今でも箱根湯本の工房で手作りしています。
 ところで、最近モノ作りは直接地球環境の変化と関わっていることを実感しています。たとえば十勝の小豆にしてもこれまでは大きい寒暖差が大粒の小豆を作ってきたのですが、ここ8年足らずで、作物に変化が見られます。地球環境の危機を訴えた、スウェーデンのグレタ・トゥンベリ(17)さんが温暖化によるリスクを訴えていますが、我々も他人事ではないとはっきりと感じます。また、昨年、箱根も温暖化による天災に大きなダメージを受けています。特に、箱根といえば箱根登山鉄道の列車が浮かびますが、残念なことに、大雨で土砂崩れが起きその復旧が待たれています。1年はかかると言われていますが、箱根湯本から強羅間の登山電車は箱根の象徴ですから一刻も早く動き出して欲しいと願っています。

文=
「うつわ菜の花」のギャラリーには選りすぐりの作品が並ぶ

たかはし たいいち
1947年神奈川県小田原市出身、成蹊大学卒業。71年光榮堂入社。83年株式会社菜の花社長、2018年より会長。「和菓子菜の花」の店舗は小田原、箱根、辻堂、横浜。「うつわ菜の花」代表。「うつわ菜の花」「箱根菜の花展示室」菜の花暮らしの道具店」で企画展を開催する。

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