小木曽 伸示
(箱根 ゆとわ 支配人)
強羅は箱根の高級住宅地であり別荘地である
箱根登山鉄道の強羅駅から歩いて5分ほどの地にある「箱根 ゆとわ」は2019年8月に開業しました。強羅は箱根登山鉄道の開通とともに、政財界や文化人の大きな別荘が建つようになり、高地で夏でも涼しいことから富裕層の避暑地としても人気の地です。毎年8月には強羅夏祭りが開催され、明星ケ岳の山頂近くでは「大文字焼き」とともに豪華で美しい花火が強羅の夜を彩ります。強羅公園は一年を通し様々な花が咲き、陶芸や吹きガラス、トンボ玉、切子などの体験教室もあれば、益田鈍翁ゆかりの「白雲洞茶苑」の茶室などもあって、箱根屈指の観光地と自負しています。
強羅は高級老舗旅館が多いイメージがありますが、「箱根 ゆとわ」は、某損害保険会社の研修・保養施設として使われていた建物をリノベーションしたもので、和モダンの「ホテルタイプ」と「コンドミニアムタイプ」の部屋が備わっており、カジュアル感から若いカップルや小さいお子さまがいるファミリーに人気のホテルです。強羅温泉の良質な湯で寛ぐことのできる「スパラウンジ」や、ウッドデッキに足湯や焚き火炉を設えた「ナカニワ」もあります。また約700冊の本を備えた「ライブラリーラウンジ」で読書もできれば、「キッズエリア」として子供の遊ぶ場所も確保されています。お風呂に入って宿泊するだけではない、思い思いに過ごすことのできる新しいホテルのスタイルを目指しています。
インスタ〝映え〟するホテル、ワーケーションに最適のホテルを提案
2年前に赴任したばかりの頃、コロナ禍でお客さんがめっきり減ってしまい苦戦していました。そこで私はシティホテルで10年ほど勤務した経験から、ホテルを普段使いしてもらおうと発想しました。しかも法人利用を促進したのです。今でこそ、「ワーケーション」という働き方が推奨されるようになりましたが、当ホテルを「ワーケーション」の場として使ってもらうよう発信したのです。だんだん成果も出てきて、先日もIT企業の皆さんが、コンドミニアムタイプの部屋に大きなテーブルを置いて会議をし、仕事は各々の部屋やラウンジで、強羅公園を散策して発想の転換をするなど、普段の生活とは異なる場所で、余暇を見つけて楽しみつつ仕事を進めていました。みなさんリフレッシュできて、とてもいい時間が過ごせたと喜んで帰られました。某大学の教授にもこういったホテルの使い方を提案したところ、卒論の中間発表に学生を集めて当ホテルを使ってもらえるようになったのです。
ファミリー向けに「ゆとわ」の目の前を走る箱根登山鉄道さんと定期的にミーティングをしながらコラボ企画を実行しています。今年の夏休み企画としては、「箱根登山トレインビュールームと駅長なりきりプラン」を開催日限定で販売しました。箱根登山電車が強羅駅に向かう光景が一番見えやすい客室を「トレインビュールーム」として改装。2000形で使うボックスシート(座席)とつり革を備え、ホテル前の通過時間を示す特別な時刻表を用意し、電車が通るタイミングに合わせて撮影してもらう。インスタ映え抜群です。お子さまを対象にした、「駅長なりきりプラン」は、ホテルで制服を用意し強羅駅まで出勤してもらいます。そしてホームでの列車到着アナウンスや、電車の出発指示合図、切符の発券なども行うので、大変人気がありました。
この頃感じるのは、箱根に若い観光客が増えたことです。当ホテルも例外ではなく、女子旅を楽しむグループが多くなりました。彼女たちは「映える」写真や動画を撮ることを目的としてホテルにやって来るのです。浴衣を着て自撮りをし、食事も「映える」ものを好みます。価値観の違いを感じますが、そこは同世代で、気持ちのわかるスタッフの出番です。絵の上手なスタッフは、季節ごとのかわいいイラストでランチョンマットを作ってくれます。私の役目は、若いスタッフの上手なサポート役になることだなと感じています。
政府の水際対策の緩和で、近々ヨーロッパ圏から観光客を迎えます。大きい浴衣や、変換プラグのコネクターの用意など、久しぶりにインバウンドを迎える準備も整っております。荷物タッグづくりなど細かい準備に若いスタッフも張り切っています。こうして海外からのお客様を迎えることができるという嬉しさとともに、心地よい忙しさの中にいます。(談・文責編集部)
こぎそ しんじ
岐阜県出身。1991年小田急リゾーツ入社。「箱根ハイランドホテル」の勤務後「山のホテル」ほか小田急リゾーツの各ホテルにて勤務。2020年10月より「箱根 ゆとわ」支配人。(写真は箱根ゆとわ前、通過する箱根登山鉄道をバックに)
「箱根 ゆとわ」
〔住〕神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300-27
〔問〕0460-82-0321(受付時間10:00~18:00)