250年にわたる伝承芸能
新しい年の始まりには縁起を担いだ獅子舞を見かける機会も多いが、箱根には、安永5年(1776)から伝わる「湯立獅子舞」という伝承芸能がある。「湯立獅子舞」は、天災や悪病退散、五穀豊穣を祈る大切な行事として伝わってきたが、現在は箱根町宮城野と仙石原、静岡県御殿場市にしか残されていない。伊勢神宮の式年遷宮にも招かれ奉納する格式の高い神楽として認知されている。これまでに神奈川県と国の無形文化財に指定されていたが、令和4年には、「国指定重要無形民俗文化財」に指定されたのである。
宮城野湯立獅子舞保存会のメンバーは、現在16名。高校生5名、中学生1名の若いメンバーと70代を筆頭にしたベテラン10名。毎週土曜日に集まり舞や笛、太鼓など、250年前から続く伝承芸能の所作や細かい決まり事を習得すべく厳しい練習を続けている。
宮城野湯立獅子舞は、毎年7月15日、氏神様の諏訪神社内の津島神社で天王祭と呼ばれるお祭りの中で公開奉納される。保存会のメンバーは、1週間前から一切の不浄を絶ち、前日には全員が社殿にこもる。境内の滝で何度も水垢離(みずごり)を取り、身を清めて行事に臨む。そして、獅子が燃え滾る窯の前に立ち、東西南北をお祓いし、御幣で湯窯の火を清め、祭壇の青竹幣で湯の中をかき回すこと3度。最後に湯笹を取って両手で熱湯をかきまわし、湯笹を持った獅子は飛ぶように石段をかけあがって湯笹をはたく。この湯花を参詣者の頭上に振りかけるのだが、湯花をいただくと一年間病気に罹らないと言われている。