コロナ禍の今こそ!
獅子の中に入る者は、宮城野村内に生まれた長男にしか資格がなかった。さらに湯立にかかる前の肝心な法言(ほうごと)は、前夜になって初めて先輩から口伝されるものであった。稽古は、毎年正月七草の日から寒稽古が始まる。練習時間に間に合わないと、かなり重い罰があったという。が、少子化などにより、長男という縛りはなくなったが、厳格な決め事が正しく遂行されているからこそ、伝承芸能が継続できるのだろう。
宮城野湯立獅子舞保存会の広報を担当する稲葉潤さんが語る。
「私は小学校3年生からやっていますが、獅子の中に入って二人で組む舞いは、かなり体力もいるものです。舞いができるメンバーは私とベテランの神戸信由副会長しかいない時代が10年くらい続きました。私がやめたら250年も続く文化が途絶えてしまうという危機感がありましたが、現在は舞をできる子供たちが5人になり主役になれるまでに育ちました。その子たちに責任を持たせ自分はサポートする立場になりました」
と、長年続けてきた喜びを語ってくれた。
天王祭の他にも箱根や、依頼があれば舞を披露して、イベントを盛り上げる。毎年大晦日から元日にかけての深夜、諏訪神社に舞を奉納し、その後、地元のホテルなどの出演依頼もある。また箱根町の賀詞交換会などには特化した舞が披露される。
「伝承芸能を続けるのは大変なことです。この獅子の頭の中には、250年分の人たちの思いがあります。その中に入ることができることに無条件の嬉しさがこみ上げてきます。これを300年、400年と続けていきたい」と稲葉さんは語る。
大正デモクラシーの神道批判の影響を受け、獅子舞が一時途絶えた時期もあったが、1918年のスペイン風邪の流行で、悪疫退散を祈願して復活したという歴史がある。2020年初頭に世界を襲った新型コロナウイルス感染症の災禍はまだ終息が見えない。しかし、国指定重要無形民俗文化財に指定された今こそ「湯立獅子舞」にあやかって悪病悪疫の一掃を願わずにはいられない。