そして75年、俳優・峰岸徹が誕生する。クールで、ワイルドで、そしてナイーブな魅力の若手俳優から、渋さを感じさせる、そして時にユーモラスな表情も見せる、硬軟自在の演技で深い奥行を感じさせる俳優になっていた。映画、テレビ、舞台と出演作も多く、大河ドラマ「風と雲と虹と」の源扶、真田広之主演のテレビドラマ「高校教師」での娘との近親相姦を匂わせる描写も話題になったヒロイン桜井幸子の父親役、深作欣二監督映画『赤穂城断絶』での堀部安兵衛などが印象深いが、特に記憶に刻まれるのは、一連の大林宣彦作品である。
峰岸徹のお別れの会での、発起人の一人である大林監督によると、30年間に実に28本の大林映画に出演しているということだ。『瞳の中の訪問者』『ねらわれた学園』『廃市』『天国にいちばん近い島』『さびしんぼう』『野ゆき山ゆき海べゆき』『異人たちとの夏』『水の旅人 侍KIDS』『あした』など、それぞれの映画で、今でも峰岸徹の顔が浮かんでくる。ロマンティックな容姿とムード、ファンタジーを存分に味わわせてくれる峰岸の演技は、非日常的とも言える大林映画には欠かせない存在になっていた。個人的に好きなのは、福永武彦の短編小説を映画化した83年の『廃市』での峰岸徹だ。根岸季衣、小林聡美姉妹、そして入江若葉という3人の女に関わる重要な役柄を、なんともセクシーに説得力のある人物として演じ、ファンタジーの世界を見事に創り出していた。
遺作となった2008年の映画『その日のまえに』も大林宣彦監督作品だ。大林監督は、峰岸を「顔は二枚目だが、精神は三枚目」と言い、「全ての人と約束を果たした男」と、峰岸の人としての魅力を讃えた。そして、峰岸の死の一週間後の東京国際映画祭での『その日のまえに』の舞台挨拶と記者会見で、出演者の一人として峰岸徹の名を呼びあげた。お別れの会に出席した〝野獣会〟時代からの付き合いである俳優・中尾彬もまた、「あんな感じのいい奴はいない」と言っていた。峰岸は東京の銀座生まれで、銀座の泰明小学校3年生のときに、日本橋浜町に引っ越したという。幼いころから、寄席へも連れて行ってもらい、落語に魅せられていた。晩年には、新宿末廣亭の高座で噺も披露している。生来、粋な男だったのだろう。
2008年の映画で米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督映画『おくりびと』で、峰岸は主人公の納棺師である本木雅弘の父を演じており、本木の納棺によって見送られるという役柄だった。峰岸徹は、この映画の上演中に亡くなったため、映画の役柄と重ねてその死を受け止めた人も多かったのではないだろうか。
僕にとって、とても心に残る俳優の一人である。
文=渋村 徹
※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。
マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。
マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F