映画界の重鎮が語る「映画は死なず」

新型コロナウイルス蔓延問題は、芸術や文化にも大きな影を落としている。劇場、映画館、コンサートホール、ライブハウス、美術館、寄席、そして劇団やさまざまなアーティストたちは活動休止を余儀なくされた。街から劇場や映画館が消えるのではないかと危惧する声も聞こえてくる。6月1日にはロードマップがステップ2に移行し、入場制限や座席間隔の留意を前提に劇場や映画館の再開が可能になったとは言え、感染症対策により、観客は満席時の半数程度である。50パーセントの入場率では「興行として成立しない」と、演劇関係者たちも頭を抱える。芸術、文化発信の最前線にいる人々が、どのように模索し、苦境を脱しようとしているのか、現場の声に耳を傾けてみる。

Vol.3
岡田裕介さん(東映株式会社 代表取締役グループ会長)

1949年、京都市出身。俳優として活躍後、映画プロデューサーに転身。東映東京撮影所長、シネコンを運営するティ・ジョイ社長を歴任し、02年東映社長、14年より東映グループ会長

緊急事態宣言が発出され映画館は休館を余儀なくされた。新作映画の公開延期もありコロナ禍は映画興行の世界を蝕んでいる。「一般社団法人日本映画製作者連盟」の会長も兼務し、映画プロデュ―サーでもある岡田裕介さんに、どうコロナ禍と対峙し取り組んできたか、また斯界の今後についてお話を伺った。

インタビュー:2020年8月5日

映画館は〝密〟ではない

―― コロナ禍の危機を感じたのはいつですか。
岡田 4月7日の緊急事態宣言の発出で、映画館をクローズしなければならなくなり、その上、撮影所もストップがかかりました。入口と出口、全部がストップになったということですから、映画、テレビも作品の製作ができないし、上映もできない、これは大変なことになったな、と。
─― テレビドラマもアーカイブが多かったですね。
岡田 うちは、かなり撮り溜めているものがありましたが、それでもおよそ1ケ月半、6月一杯から7月20日までは映画界はどうしようもなかった。8月に入って、このところやっとヒットが出てきました。8月7日から『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の上映が始まりましたが、これがどこまでヒットするか。東宝の『今日から俺は! 劇場版』と『コンフィデンスマンJP プリンス編』の興行がいいのですが、シネコンになって他社配給の作品でも映画館は潤う。ありがたいことに、相互乗り入れがあることは助かります。ただ洋画がまだストップなので、邦画だけで支えている感じで、まだ片翼飛行ですね。
─― 映画館の対策としてはどうされていますか。
岡田 映画館は〝密〟のような感じを持たれる方が多いようですが、本当に換気がいいんですよ。何故かというと、映画館がフィルムで上映していた時代のままの法律下で、営業許可上、非常口をつけることや換気空調設備など、徹底してやってきた。シネコンはどこにいるよりも換気がいいんです。それに前の席との間隔も広いし、ウイズコロナで客席を1つずつ空けているから新幹線の中とあまり変わらない。多くのシネコンはサーモグラフィカメラを配備して、観客が通過するだけで検温ができるようになっていますし、東映系のシネコン「ティ・ジョイ」の全館の館内には、緊急事態宣言後の営業再開時には抗ウイルスコーティングを実施しました。

新宿バルト館内 ゆったりとした席、大画面での鑑賞は映画館ならではの醍醐味だ。


─― 業界として同じ対応ですか。
岡田 コーティング抗菌をしているのは、東映系だけです。あえて宣伝はしていませんが、抗菌作用はおよそ半年くらい効果があると言われています。一番大切なのは、検査体制に限界があるかもしれないけれど、まず抗体検査、PCR検査をやることだと思ったので東映グループはいち早く全社的に検査を実施しました。
─― 症状がある、ないにかかわらず一斉にやるということですか。
岡田 撮影所も含めグループ社員全員。撮影所のスタッフに感染者が出てしまったら、全部ストップになってしまうでしょう。だからクランクイン前に検査を実施しています。俳優さんもマスクしてお芝居なんてできない。そういう不安を解消しなければ仕事が進まない。陽性反応が出たスタッフには遠慮してもらうという覚悟です。そうすればプロジェクトは遂行できます。陽性者と濃厚接触している人がいたら、その人も待機してもらうように徹底した。企業経営をしていくには、基本をちゃんとやっていかないと、皆安心して仕事ができないでしょう。
─― 体調がおかしくなって保健所に行って検査して感染が分かるというのが現状です。
岡田 検査費用や検査体制の問題もあるので検査が進まないのだと思いますが、もし陽性者が出たら効くか効かないを考えるより早くアビガン等、薬を投与できればと思っています。経営者としては一番働きやすい環境をつくらなければならないと思っています。

東映東京撮影所の260坪・天井高9.7mに加え98基の照明バトンを完備した最新鋭のラージサイズ・ステージ。ここから様々なシーンが生れる。


─― 撮影所もストップしたというと、関わるスタッフの仕事がなくなることも大変なことです。
岡田 多分わが社が動き出したのも一番早かったと思いますが、検査で陰性ならどんどん仕事を進めて行きましたから、テレビも映画も順調です。もちろん俳優さんにも検査をしてもらいます。映画製作の集団というのは、固定された人の集団になるのでそれ以外の人は入って来ません。撮影所には検査を済ませた人でないと入れない、「関係者以外お断り」にして安全を守っています。検査をして安全だったら経済活動と両立できるでしょう。

「丸の内TOEI」は、 東映の現本社が竣工した1960年に丸の内東映、丸の内東映パラスとして開館。2004年10月に現在の館名に改称。2スクリーンある。
映画の製作は、フェイスツーフェイスでなければできない事柄がいっぱいあるわけです。昨日も脚本直しがあったけれど、そんなのテレワークじゃできない。お互いの顔色を見て進めるという感じがあるんです。クリエイティブというのはそういうものです。

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