石原まき子・石原裕次郎夫妻とプライベートな交流で起こったレアな思い出を、作家「なかにし礼」が語る

文=なかにし礼

雑誌¿Como le va? vol.29 表紙・早田雄二写真シリーズ第9弾


『狂った果実』をはじめとする映画や 雑誌グラビアなどで披露された水着姿からもわかる抜群のスタイル、また、昭和 30 年ころに流行った言い方である M型(MANの略で、男っぽいの意)女性の代表とされた都会的でボーイッシュな雰囲気は、若い世代に人気を博した新生日活映画のトップスター女優として、多くの若者たちの視線をスクリーンに釘付けにした。石原裕次郎と出会ってから、もっぱら裕次郎の相手役を務め、そして結婚。大スター同士の二人の結婚は、日活やファンを巻き込んでの大騒動だった。結婚後はきっぱりと女優業を引退し、裕次郎夫人として夫を支え続けた。裕次郎さんと親交が深く、裕さんを通してマコ夫人と出会ったなかにし礼さんが綴る私的「北原三枝」論から、石原まき子という女性像が今鮮やかに浮かび上がってくる。


 北原三枝といえば、まず頭に浮かぶのは『君の名は』(第二部)の北海道のシーンで登場したアイヌ娘である。あの美しさにはド肝を抜かれた。こんな美女がどこにいたのかという驚きである。瞳の輝き、唇のなまめかしさ、全身が放つ圧倒的な女らしさ。それに声も、甘みのあるのに尖っていて艶っぽい。この時の北原三枝の美しさは『白痴』の原節子、『羅生門』の京マチ子に匹敵する。日本の三大美女の一人といっていいだろう。

 次はなんといっても、『狂った果実』(一九五六)で石原裕次郎(夏久)と津川雅彦(春次)という兄弟との愛に翻弄される女(恵梨)。北原三枝はのちの『逆光線』という映画でもその見事な水着姿を惜しげもなく見せてくれるが、スタイルの良さは群を抜いている。季節は夏、舞台は湘南、いかに若い男たちが不良であり奔放であったとしても、北原三枝のあの素晴らしい水着姿と脚線美がなかったら、これほどまでに真剣な恋にもこんな悲しい結末にもならなかったであろう。すべての要因は、北原三枝の魔性を秘めた美しさがあって初めて成り立っているのだ。

 この映画で石原裕次郎と北原三枝は恋に落ち、『陽のあたる坂道』(五八)で共演したのち、六十年に結婚してしまった。むろん日本中が大騒動になった。

©Yuji Hayata / JDC

初めて銀座の早田スタジオを訪れた北原三枝は
真っ白なワンピース姿だった。
この人は大女優になる、写真家早田は瞬時に確信したという。

 さて、私が石原裕次郎さんと初めて会ったのは一九六三年の晩夏である。 伊豆下田の東急ホテルでのことである。その時、裕さんは私に三つのことを言った。「シャンソンの訳詩なんてやめて、日本の歌を書けよ」「この『太平洋ひとりぼっち』って写真には命をかけてるんだ。できあがったら必ず見てくれよ」「女房に心配かけるんじゃないぞ」

 その後、私は歌謡曲の作詩をやるようになり、石原プロモーションのお世話になり、黛ジュンという歌手をスター誕生に参加させたり、裕さんのための作詩までしたりして、順調に作詩家生活をスタートさせていたのだが、私の妻は、私が作詩家になることに反対であった。もっと大学教授とか作家とか世間的に見栄えのする仕事をしてもらいたかったようだ。

 私は離婚の意志を表明して家に帰らなかった。するとなんと、妻は北原三枝さんつまり石原まき子さんのところへ相談に行き、そのまま石原家に一週間ほど居候までしてしまった。その時、裕さんは私に言った。
「礼ちゃんよ、お前んとこのカミさん、まだ俺んちにいるぜ。昨夜帰ったら、マコと一緒に風呂入ってたよ。俺が口出すと話が面倒になるから遠慮するけど、どっちにするにしても早く結論だしなよ」

 私は恥ずかしさで汗びっしょりになった。

 その後間もなく私は妻と正式に別れた。

「わが人生に悔いなし」という歌のレッスンをしてくれと言われ、ハワイの裕次郎邸にお邪魔した。その時は今の妻と娘が同行したのだが、私と裕さんが話し込んでいる間、マコ夫人は家内と娘を連れてビーチを散策してくれていた。

  翌日、裕さんとマコ夫人、私と家内の四人でゴルフをハーフラウンドした。一番のティグランドで裕さんは新品のドライバーでなんどか素振りしていたかと思うと、

「なんだこりゃ、全然ダメじゃないか」

 裕さんはそのクラブを近くにあったゴミ箱に捨てた。マコ夫人は、

「あら、あなた、まだこれ、値札がついてるじゃありませんか」

 笑ってとがめたが、そのクラブを拾いあげることはしなかった。

 そうそう、あの時、マコ夫人はうちの家内にゴルフ場のタオルを買ってくれたっけ。

 成城の石原邸にお見舞いにあがった時など、

「せっかく見舞いに来てくれたんだか ら、シャンパンぐらい開けなきゃ申し訳ないだろう」

 と裕さんは言う。

「裕さんは飲んではいけませんよ」

 マコ夫人は私と妻のグラスにシャンパンを注いでくださる。

 マコ夫人が席を立つと、すかさず裕さんは私のグラスからシャンパンをひと口すする。

 それを見て、メッという顔をするマコ夫人。

 首をすくめてみせる裕さん。  

 なんともほほえましい風景だ。  

 裕さんが亡くなって二十一年経った二〇〇八年、私が古希を迎えた。恥ずかしながら古希の会を開いた。マコ夫人は出席してくださった。延々と二時間以上も私は隣の席のマコ夫人と談笑できた。マコ夫人がいる、慎太郎さんがいる。私は今にも裕さんが現れるのではないかという錯覚にとらわれた。裕さんは優しかった。が、その裕さんの優しさを裏打ちしていたのはマコ夫人ではないか。

「美しきものに微笑みを 淋しきものに優しさを 逞しきものに更に力を 全ての友に思い出を 愛するものに永遠を 心の夢覚めることなく」

  マコ夫人によって裕さんのお墓に刻まれた〝贈る言葉〟を読むたび、私はそ う信じないでいられない。


きたはら みえ
女優。1933年東京生まれ。現在は石原まき子として石原プロモーションの代表取締役会長を務める。日劇ダンシングチームに5期生として入団、52年に退団後、松竹のニューフェイスに合格、『カルメン純情す』で本格的な映画デビューを果たす。54年には新生日活に引き抜かれる形で移籍、エース女優として活躍する。『狂った果実』で後に結婚する石原裕次郎と初共演後は、日活のドル箱コンビとして20数本の共演作が製作された。60年の結婚を機に女優業を引退した。主な出演作に映画『お茶漬の味』『君の名は 第二部』『銀座二十四帖』『愛のお荷 物』『月は上りぬ』『青春怪談』『風船』『夏の嵐』 『流離の岸』『逆光線』『勝利者』『俺は待って るぜ』『嵐を呼ぶ男』『今日のいのち』『風速40 米』『明日は明日の風が吹く』『陽のあたる坂道』 『赤い波止場』『錆びたナイフ』『天と地を駈ける男』『若い川の流れ』『男が爆発する』『清水の暴れん坊』『闘牛に賭ける男』『天下を取る』『青年の樹』『やくざ先生』『鉄火場の嵐』などがある。 裕次郎の死後、88年には『裕さん、抱きしめたい』を出版した。

なかにし れい
作家。1938年、中国黒龍江省牡丹江市生ま れ。立教大学文学部仏文科卒業。大学在学中 よりシャンソンの訳詩を手がけ、64年菅原洋一が歌った「知りたくないの」のヒットを機に作詩家 となる。「天使の誘惑」「今日でお別れ」「北酒場」(いずれもレコード大賞受賞)のほか「恋のフー ガ」「愛のさざなみ」「恋の奴隷」「手紙」「別れの 朝」「人形の家」「港町ブルース」「石狩挽歌」「時 には娼婦のように」など約4千曲の作詩を手がけレコード大賞作詞賞を2度受賞。その後作家活動を開始、2000年に『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞。『兄弟』『てるてる坊主の照子さん』『夜盗』『世界は俺が回してる』など多数の著作がある。15年に作家・作詩家生活50周年を記念してリリースされたアルバム『なかにし礼と12人の女優たち』は、浅丘ルリ子、大竹しのぶ、黒柳徹子、佐久間良子、常盤貴子、桃井かおりらがなかにし礼のヒット曲を歌い大きな話題となった。続いて発売されたオリジナル歌手の歌唱によるアルバム『なかにし礼と75人の名歌手たち』は、まさに昭和歌謡大全の趣きだ。最新アルバムは『なかにし礼と13人の女優たち』。

2016年10月1日 Vol.29より

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