優等生であり大スターまさに東宝映画のヒロイン
此処で初めて司さんを〝葉子ちゃん〞と呼ばせてもらうが、葉子ちゃんは美女にありがちな高慢さは全くなくて、いつでも新人の私達にも同級生のように気軽に話しかけてくれたり、スタジオの喫茶ルームで一緒にお茶を飲んだりしてくれた。そんなことで〝葉子ちゃん〞と気安く声をかけられるようになるのに、それほど時間を要しなかったような気がする。いつのまにか、葉子ちゃんと呼んでいた。
〝明るく楽しい東宝映画〞のキャッチコピー通りを目指した会社らしい家族全員が観て楽しめるいわゆる娯楽映画と、黒澤明監督作品に代表される大型時代劇をメインにした映画作りのなかで、葉子ちゃんは東宝を代表する優等生であり大スター、まさしく東宝映画のヒロインだった。一方、黒澤監督作品『用心棒』ではちょっと哀しい子持ちの女性も見事に演じて、男ばかりの映画のなかでキラリと光るその演技に私は胸打たれた。
共演した千葉泰樹監督作品『沈丁花』では葉子ちゃんは四姉妹の次女を演じ、長女の京マチ子さん、三女の団令子さん、四女の星 由里子さん、母親役の杉村春子さん達と和気あいあいのなかで楽しい仕事ができ、駅前シリーズの第四作『喜劇・駅前温泉』(久松静児監督)では森繁久彌さんの娘の葉子ちゃんと、伴 淳三郎さんの隠し子の私が恋人同士なのだが、親同士は犬猿の仲で二人はいわゆる〝ロミオとジュリエット〞のような面白い役だった。最後は東宝映画らしくハッピー・エンドだった。
小津安二郎監督の『秋日和』、中村登監督の『紀ノ川』、成瀬巳喜男監督の『乱れ雲』など映画ですばらしい演技を見せた後は、演劇の世界に進出し芸術座、帝国劇場などで数々の作品に主演し、スクリーンのみならず舞台でも葉子ちゃんはヒロインである。スクリーンで見せた華やかな美貌に加え、舞台ではさらに陰影という奥行を見せる女優さんになっていた。
でも、私のなかではやはり〝葉子ちゃん〞。東宝撮影所で初めて出会ったとき抱いた第一印象の清潔感、美貌、そしてスターのオーラは、永遠に私の胸をキューンとさせるのです。