24.07.16 update

世界中の映画祭を席巻した、メキシコの新鋭監督の『夏の終わりに願うこと』

 第73回ベルリン国際映画祭 エキュメニカル審査員賞、第96回アカデミー賞国際長編映画賞 ショートリスト他世界中の映画祭を席巻した、『夏の終わりに願うこと』が、2024年8月9日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次ロードショーとなる。

 生と隣りあわせた死、家族の繋がりなど、たくさんの要素がつまったそれぞれ人生を、7歳の少女・ソルの目を通して、メキシコの新鋭監督、リラ・アビレスが描きだした。
 ソルは母のルシアに連れられて父・トナの誕生日パーティーのため祖父の家を訪ねる。車で橋を渡っている間に息を止めていられたら、願いが叶うというゲームをするソルとルシア。
「私の願いは何だと思う? ─パパが死にませんように」というソルだった。

 祖父の家に着くと、ケーキを作っている最中の叔母・ヌリアと介護ヘルパーのクルスが温かく迎えてくれる。早く父に会いたいソルだが、身体を休めているからとなかなか会わせてもらえない。祖父は精神科の医師でありながら、会話には発声補助器が必要だ。トナの病気のため、もう一人の叔母のアレハンドルは霊媒師を呼んでいた。火をつけた棒を両手に、家の中を歩き回り除霊を続ける霊媒師。祖父は、「診察室を燃やすつもりか」と怒り出す。「トナの治療費の支払いが続かない」そんな叔母のヌリアと祖父の会話も聞こえて来る。従姉妹たちと無邪気に遊びまわることも、大人たちの話し合いに加わることもできず、不安が募るばかり。
 日が沈み、パーティー会場には次々と人が集まり、トナの懐かしい話で盛り上がる。やっとソルは、父の部屋に入ることができ、久しぶりに再会のハグをする。トナは、ソルへのプレゼントとして大きな絵画を描いていた。そこには、フクロウ、カエル、白鳥など、ソルの好きな動物がたくさん描かれていた。ヘルパーのクルスが呼びにきて、クルスに支えられながらゆっくりパーティ―会場に向かうトナ。忘れられない誕生日パーティーが始まる……。

 主役のソルを務めるのは、映画初出演のナイマ・センティエス。監督は、彼女の近くにいる感覚が気に入り直感的に「この子だ!」と決めた。作品には、祖父をはじめ、叔母たちや従姉妹、友人、近隣の人たちが登場する。メキシコ人の気質はおおむね、陽気でおおらか、親切でフレンドリー、家族を大切にすることなどが思い当たるが、個性豊かな登場人物たちとソルの1日はまるでドキュメンタリー映画のように進んでいく。父のトナが、絵に託したソルへの想いに熱いものがこみあげてきた。

『夏の終わりに願うこと』
8月9日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
© 2023- LIMERENCIAFILMS S.A.P.I. DE C.V., LATERNA FILM, PALOMA PRODUCTIONS, ALPHAVIOLET PRODUCTION
配給:ビターズ・エンド
https://www.bitters.co.jp/natsuno_owari/index.html

映画は死なず

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