その年の下馬評では『Shall weダンス?』(1996)が強いと言われていた。当時、会員の30%以上が大手配給会社系の社員が占めていて、どうしても「東宝」「東映」「松竹」の作品の受賞が多かった。ちなみにその前年、ブルーリボン主演女優賞等に輝いた中山美穂も、日本アカデミー主演女優賞の5人の中にノミネートされていない。
まずは日本アカデミー賞協会からプロデューサーに当該作品、受賞者の連絡が来る。僕が、皆に伝達するのである。受賞が伝えられたのは「作品賞」「監督賞」「脚本賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「助演女優賞」「音楽賞」「撮影賞」「美術賞」「照明賞」「録音賞」「編集賞」「新人俳優賞」「話題賞」の14部門だった。大手映画会社作品でなく、公開も70館程度であり、個人的には「自主映画」のような作品に多くの人が投票してくれたことは素直に嬉しかった。
結果は全13部門(「新人俳優賞」と「話題賞」はコンペでなく受賞なので除かれる)、『Shall weダンス?』が獲得した。
『スワロウテイル』は「監督賞」「脚本賞」「編集賞」の岩井俊二氏が欠席(不参加)。これを聞いた「主演男優賞」の三上博史氏も欠席。「音楽賞」の小林武史氏も同様。
「主演女優賞」のCharaも同意思だったが、「助演女優賞」「新人賞」でW受賞の伊藤歩さんの出席を伝えると、参加に変わった。もちろん、技術スタッフは全員参加。「録音賞」などの部門は、他の映画賞ではほとんどなく貴重な機会である。
僕は、個人の意思がそうであれば、強要はしない。組織、会社ではなく「個人」に与えられる賞だからだ。ただ、周りから見れば、不自然に映ることも確かだ。
当日の授賞式に「参加」「出席」するというのが賞をもらえる「条件」になっていることへの違和感だ。
『スワロウテイル』は僕が受賞を伝え、彼らが「不参加」を表明した段階で5部門のノミネート(参加表明時点で受賞だが)から外される。投票では5番以内に入っているが、当日の授賞式には不参加=受賞資格無し、になるのである。これは世界でも日本アカデミー賞だけかもしれない。
しかし、この事実が100%、否定されるものかと言えば、そうでない点もあるのかもしれない。かつては僕もテレビ局員であったことが大きいが、日本テレビがこれまでずっとプライムタイムで放送し続けてきたのは、視聴率がある程度獲得出来てきた「番組」だった点だ。運営する映画会社としても日本テレビ系で全国ネット放映があるからこそ、映画界が盛り上がると考えているからだ。そのためには各部門5人が必ず「番組」に出演することは必須なのである。特に俳優は、もし5人とも会場に来なければ番組として成立しなくなるだろう。この生放送(実際は少しディレイだが)の宿命を継続していくためには止む無し……で繰り上げ当選のようなことを続けてきたのである。それでも繰り上げ当選した人も含めて、受賞することの喜びは大きなものである。