25.01.28 update

第7回【東宝映画スタア☆パレード】黒沢年男 三船敏郎以来の野獣的演技。今こそ見るべき『パンチ野郎』と『死ぬにはまだ早い』


 虚無的な空気が作品全体を覆う出目昌伸監督作『俺たちの荒野』(69)は、その映像表現やカメラワーク(撮影は黒澤映画の中井朝一)から、出目がアメリカン・ニューシネマや『突然炎のごとく』、『冒険者たち』といった外国映画を意識したことは明らか。女性脚本家・重森孝子の起用も奏功した東宝青春映画異色の作品だ。


 ただ、ここでの黒沢は〈いつもどおり〉の黒沢であり、むしろ(逆立ちや強姦未遂シーンで)挑発的な演技を披露した酒井和歌子の方が目立つ結果となった。「それまでの受け身の姿勢」とはがらりと変わったワコちゃんに、大きな衝撃を受けた方も多いのではないか。


 本作で黒沢&酒井と三角関係になる青年・純に扮したのは東山敬司。『兄貴の恋人』(68)の一般公募で内藤洋子の恋人役に採用され、以来、東宝青春映画に出演してきた二枚目俳優だ。
 共演者の赤座美代子さんに聞けば、このとき黒沢は東山を「素うどんみたいな俳優」と称したという。そのココロは「見た目は良いけど味がない」。確かに映画俳優としては長続きしなかったが、東山は本作で複雑な心の内を全身で表現、実に「良い味」を出していた。彼抜きでは、黒沢もあれほどまでに引き立つことはなかったろう(※3)。


「目一杯好き勝手に演じさせて貰った両監督には、感謝の気持ちでいっぱいです」
 後年、黒沢はこう西村と出目に謝意を述べるとともに、松田優作から「その両作品に憧れ、俳優になろうと決心した」と告げられ、「くすぐったい気持ちになった」ことを明かしている。実際、優作の‶遊戯シリーズ〟(村川透監督)には、『白昼の襲撃』の影響が色濃く感じられる。

 
 東宝時代の代表作には〝東宝ニューアクション〟の一作、『野獣都市』(70)も挙げねばならない。監督は傑作犯罪映画『血とダイヤモンド』(64)の福田純。どちらもハードボイルド映画が嘘臭くなく、日本でも通用することを証明した極めて稀な作品で、本作では黒沢のクールな持ち味が十二分に堪能できる。


 この映画で、憧れの俳優、スティーブ・マックイーンに少しは近づいたようにも感じるが、あなたのお気に入りの黒沢年男はいったいどの役だろうか。よもや『伊豆の踊子』(67)の一高生ではないと思うが……。



※1 実弟の黒沢博は寺内タケシのバンド「バニーズ」で活躍、その後、ヒロシ&キーボーとして人気を博した歌手。これも黒沢年男と寺内が『エレキの若大将』で共演した縁による。

※2 黒沢を売り出したい藤本眞澄(製作者)が黒澤明に『赤ひげ』への起用を要請したものの、ある理不尽な理由で断られたという話も聞くが、これはまたの機会に。

※3東山は結局、俳優として大成せず、『社長学ABC』正続篇(70)を最後に東宝のスクリーンから姿を消す。



高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

1 2 3

新着記事

  • 2025.02.19
    広瀬すず、木戸大聖、岡田将生が三角関係!二人の文学...

    2月21日(金)全国公開

  • 2025.02.17
    昭和の歌姫・山口百恵の名曲が、世界的指揮者・西本智...

    7月25日、27日公演

  • 2025.02.17
    伝説の清純アイドル!岡田奈々の芸能生活50年を記念...

    2月14日(金)発売

  • 2025.02.17
    主演は『戦場のピアニスト』のエイドリアン・プロディ...

    2月21日(金)全国公開

  • 2025.02.14
    松下洸平の『じゅうにんといろ Part.1/Par...

    3月17日トークイベント

  • 2025.02.13
    蔦屋重三郎もびっくり、浮世絵にあらず江戸時代の油絵...

    3月15日(土)~5月11日(日)

  • 2025.02.13
    葛飾北斎とクラシック音楽の融合!『北斎とジャポニス...

    500組1000名ご招待!

  • 2025.02.13
    俳優・榎木孝明が画家として初めての個展を開催、「日...

    3月13日(木)~23日(日)

  • 2025.02.13
    二階堂ふみが公式アンバサダーに!32回目の「横浜フ...

    3月20日(木・祝)~3月23日(日)

  • 2025.02.13
    デビュー60周年の加藤登紀子が歌う「百万本のバラ」...

    加藤登紀子「百万本のバラ」

映画は死なず

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!