バブルの頃だろうか、ボジョレーヌーヴォーというものを教えてくれた人が、「この新酒が出るのをみんな待ってるんだよ」と言ったとき、ユーミンのアルバムみたいだなと思ったことがあった。
─── アルバムが出るのを待つなんて、やっぱり好きなんじゃないか、それもかなり。
そうかもしれない、そうなのだろう。でも、ユーミンはいつもそこに流れていて、自分の身体の中の音楽を歌ってくれて、そんな中ではアルバムを買いに行くのも自然なことだった――やっとわかってきた、ユーミンは好きとかきらいとか、その範疇を超えている。
ユーミンは、今年でデビュー五十周年だそうである。そうと聞いて、半世紀も第一線で活躍するのはすごいことだと思ったが、それは必ずしも感慨ではなかったような気がする。五十年も何も、ユーミンははじめからいたような気がするからかもしれない。だってユーミンは、自分の中の音楽を歌ってくれるのだから。
ユーミンが過去に発表した歌は時代を超え、今も折々に流れている。歌い続けられるスタンダード。ユーミンは、いつもいる。今、そしてこれからも。
「過去も未来も星座も越え」て─── 。(あ、歌詞を覚えてる)
ありよし たまお
作家。大阪芸術大学教授。東京生まれ。早稲田大学哲学科、東京大学美学藝術学科卒業。ニューヨーク大学大学院演劇学科修了。1990 年、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞受賞。『ニューヨーク空間』『雛を包む』『車掌さんの恋』『風の牧場』『恋するフェルメール 37 作品への旅』『カムフラージュ』『美しき一日の終わり』『ソボちゃん いちばん好きな人のこと』など多数の著書がある。最新刊は自伝的小説『ルコネサンス』(集英社)。(撮影:織田桂子)