散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第40回 2023年8月21日
1枚貼ると、あとはもうビッシリギッシリ貼って、空きスペースをなくしたくなってしまう。これは何という欲望なのだろうか。同じものを貼るのは、増殖させたい気持ちか。さまざまな種類を貼るのはコレクションなのか。理由は分からないけれど、いつ頃からか、街でシールの氾濫をよく見かけるようになった。多分、子どもが部屋中に貼り出した現象が先にあって、それが街に進出したと勝手に想像している。街を自分仕様に変えたいのかも知れない。
その昔、まだ世界旅行が珍しかった時、スーツケースに各国の都市のシールを貼っていた人がいた。シールにステイタスがあった。今やシールにあるのは仲間意識ぐらいだろうか。
最近、車がシールのキャンバスになってるのを見かけた。凄い迫力。最初の一枚からここまで、一体何年かかっているのだろうか。眩暈がしてくる。貼るスペースが無くなったら、次はどこに進出するのか、ぜひ聞いてみたい。
そういえば、少し前まで、玄関扉に、楕円形の日本赤十字のシールや、円形の犬のシールがところ狭しと貼られた家があった。あれは、魔除けみたいな効果があったのかも。ちなみに、NHKの受信章シールは、2008年に廃止になっている。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。