24.02.21 update

そして僕はガリバーになる

散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。


第46回 2024年2月21日

ミニチュアフィギュアを飾っている家が、近所に何軒かある。たまたま同じ趣味の人が集まったのか、影響し合ったのかは分からない。

飾ってある状態を眺めると、ガリバーな気持ちになってくる。(笑)あの視線は、世界を箱庭のように感じる快感だ。チャップリンの「独裁者」で、地球を風船にして踊る感覚と通底している気がする。(笑)

家を可愛いい雰囲気に仕上げたい表現の可能性もある。魔除けを設置するのと真逆だ。フレンドリーな開放的なメッセージのアピールだとすると近年珍しい。

「不審者を見かけたら、直ぐ通報」

の看板が溢れている風潮の中で救われる。

近所一帯が全てミニチュアフィギュアだらけになったら楽しそうだ。少しは街に対して優しい気持ちになれるかも知れない。最近、繁華街に行く気が失せた。殺伐とした雰囲気しか感じられないからだ。繁華街にとって、ミニチュアフィギュアってなんだろ。

考えてみたら、昔は繁華街そのものがキュートなミニチュアフィギュアだったのではないだろか。何もかもが可愛さに溢れ、歩くと誰もが子供になっていくような感覚。ショーウインドウもデパートも可愛さに溢れていた。デパートのお子様ランチは、ミニチュアフィギュアだったのだ。
サイモン・メイの「『かわいい』の世界」のなかに、

「私たちのキュートへの熱狂のベースにあるのは、育てたいという衝動、あるいは無力で無邪気なものたちのいる心休まる世界に逃避したい、安全や単純さに満ちた世界に逃避したいという逃避衝動だ。」

と言う一説があった。ミニチュアフィギュアを飾るのも、逃避衝動の表れなのだろうか。

サイモン・メイ「『かわいい』の世界
ザ・パワー・オブ・キュート」
吉嶺英美役 青土社刊

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。

映画は死なず

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