◆特集コラム 劇団俳優座80年の役者たち Vol.6 ◆
2024年2月10日に創立80周年を迎えた「劇団俳優座」。劇団俳優座で活躍した名優たちをクローズアップしてお届けする。第6回は仲代達矢(1932年12月13日生まれ)。
高校3年のとき、俳優座公演モリエールの『女房学校』の千田是也を観て感激し、新劇を志した仲代達矢は、約30倍の難関を突破して52年に4期生として養成所に入所した。同期生には宇津井健、佐藤慶、佐藤允らがいた。養成所時代に映画『七人の侍』のセリフなしの浪人役に採用される。同期の宇津井健も一緒で、これが仲代の映画デビュー作となったが、黒澤明監督から歩き方が変だと、撮影に半日をかけてしまうという苦い経験だった。
55年養成所を卒業し、俳優座に入団。芸名を仲代達矢とした。
同年秋の公演『幽霊』に抜擢され、オスワル役で新劇新人賞を受賞している。起き抜けのような視点の定まらぬ瞳、抑揚のない低音、ヌーボー然とした風采から、仲間たちからは〝モヤ〟と呼ばれていた。
『幽霊』をみた月丘夢路が感激し、月丘の夫であり映画監督の井上梅次からオファーされ、映画『火の鳥』に出演。翌年には小林正樹監督、松山善三脚本の映画『黒い河』に出演し、冷酷なヤクザ通称〝人斬りジョー〟を演じ存在感を示した。小林正樹監督の『人間の條件』(59~61)は6部作で上映時間10時間という大作である。仲代はその主役を演じ、小林監督も仲代の演技に感服したという。黒澤 明監督『用心棒』『影武者』『乱』、また成瀬巳喜男、岡本喜八、市川崑、五社英雄など、日本を代表する名監督の作品に多数出演し、出演映画が米国アカデミー賞と世界三大映画祭(カンヌ、ヴェネツイァ、ベルリン)の全てを受賞しており、これは森雅之、山形勲と並ぶ。
57年には養成所2期生の先輩女優・宮崎恭子氏(隆巴の名で脚本家、演出家としても活躍する)と結婚し、後に夫婦で無名塾を主宰することになる。
映画の出演もさることながら、俳優座のさまざまな作品にも出演し、64年の『ハムレット』『東海道四谷怪談』、70年の『オセロ』、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している74年の『リチャード三世』『友達』、毎日芸術賞と、芸術選奨文部大臣賞を受賞した『どん底』と『令嬢ジュリー』のジャン役、77年の『ジュリアス・シーザー』などなど、まさしく俳優座の顔と言える俳優である。
典型的な二枚目俳優だが、温厚で誠実な役柄から、虚無感を漂わせる役、哀愁を帯びた役、冷徹で無慈悲な役柄と、さまざまな味わいを持ち合わせた芸域の広さが魅力である。俳優座退団後の舞台でも、文化庁芸術祭賞優秀賞受賞のイプセンの『ソルネス』、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した93年の『リチャード三世』、民藝の奈良岡朋子と共演し文化庁芸術祭賞大賞と読売演劇大賞選考委員特別賞受賞の『ドライビング・ミス・デイジー』、92年には日本シェイクスピア賞男優賞、芸術文化勲章シュヴァリエに輝き、2015年には文化勲章を受章。現在91歳。