萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第10回 2021年2月26日
居間に飾ってある絵が斜めになっていると、すぐに直してしまう。気になって仕方ない。本棚の、本の高さが揃っていないと気に食わない。損な性格だ。もっと大らかにやり過ごせば安穏な世界が広がっているのにと、思う。わかっているけれど直しようがない。
散歩していて、マンホールと路面の模様がズレていると気になって仕方がない。(笑)自宅の額縁と違って直せないから、思わず撮影する。それを FBにあげたら、知人がパソコンで正しい位置に修正してくれた。そうか、写真に上げれば、直せるのかと感動して、ますます撮影に励む事態に陥った。(笑)
額縁も本棚も路面も全て人工物だ。自然には無い。他者が作った物だから気になるのだろう。都会は全て他者製だ。山の中で木と木がズレて重なっていても直したくはならない。直せないから自然と言うのだ。ズレの撮影は、自分が都会人病の重症患者であることを再認識する行為なのである。(笑)
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。