萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第17回 2021年9月29日
住宅街の道幅の狭い曲がり角に、三角形の小さな空間が出現する。この三角地帯のおかげで、クルマがスムーズに曲がれるのだ。建築基準法で定められた角敷地の建築制限なのだそうで、「隅切り」とか「角切り」と呼ばれているものだ。
何故か私は、その三角地帯に出会うと撮影したくなる。勝手に「世界で1番狭い公園」と名づけて、珍しい名勝地とか、世界遺産でも発見したかのような気分でシャッターを押している。(笑)
実は、この三角地帯でイベントが出来ないかと考えた事がある。何月何日の何時から、都内の百ヶ所の三角地帯に役者が1人ずつ立って五分間だけ好きな、
「今退屈しているなら、それは自分の未来を退屈することだ」
みたいなフレーズ、小説、戯曲、詩などを朗読する。あるいは、百人がそれぞれワンワードを5分間だけ言い続ける。全員の言葉を繋げると、
「他人からは逃げられるけれど、自分からは逃げられない」
「やりたい事だけを考えるのではなく、やらない事を決める事が重要だ」
のようなアフォリズムになっているのだ。小さな三角地帯は私には舞台にしか見えないのだ。寺山修司は、「劇場はあるものではなく、なるものだ」と書いている。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。