萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第24回 2022年4月29日
気になってしまう。きれいに並んだ路面のタイルが、1枚だけ剥がれている状態だ。目が、欠けたワンピースから離れなくなり、(笑)結局撮影してしまう。
きちんと整列した状態が息苦しくなって逃亡したのだろうか。
家出を敢行したのだろうか。
路面の監獄からの脱走だろうか。などと、勝手に物語を作ってしまうのだ。
中には、集団脱走した状態もあり、その抜け跡が顔や動物に見えたりする。そうなると、意図的な脱走にも思えてくるから面白い。
欠けた路面は自治体の財政状態や管理の実情を表しているのだろう。
しかし、私には、集団から外れようとする冒険者に見えるのだ。家出もせず、逃亡者にも、孤独な狩人にもなれなかった自分の、理想的な姿をイメージしてしまうのである。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。