22.09.29 update

フィクションの世界で見事な花を咲かせる女優─浅丘ルリ子

取材・文=二見屋良樹

2009年9月25日号 INTERVIEW MY LIFE, MY STORYより


本来、演じるということが、
見事なつくりものであるべきだとしたら
そこに女優・浅丘ルリ子の顔が浮かぶ。
浅丘さんは半世紀以上にわたり
銀幕や舞台で折々の時分の花を咲かせ
いつも新しい顔でわれわれの前に現れる。
女優・浅丘ルリ子は偉大なるフィクション世界の住人である。

撮影:渞忠之


半世紀を経て揺るがぬ女優スタイル

 大スターと呼ばれる人たちには、その領域に他人が入りこむことを拒むような近寄りがたさがあり、気軽に声をかけることもはばかられるような、われわれの手の届かない世界に住む人というイメージがある。近寄りがたさ、それはその人物が大スターであることの証であり、日常的なテレビの世界に生きているタレントと呼ばれる芸能人が主流の今の時代には、稀少な存在である。
 浅丘ルリ子は、大女優であり、まぎれもなく大スターである。すなわち近寄りがたい存在である。だが、それは難攻不落な要塞の近寄りがたさではなく、手を伸ばすとまるで幻であったかのようにフワッと一歩向こう側へ遠のいてしまうような種類のものだ。
 女優は約束の30分前に現場に現れた。浅丘さんが誰よりも早く現場入りするのはよく知られてぃる。映画の撮影現場や舞台の楽屋入りなどは1時間前と聞いたことがある。映画の世界に入った新人時代からの習慣が今でも続いている。現場には一瞬緊張が走ったが、浅丘さんと二言三言の会話をするうちにそれがほぐれてくる。スタッフのそれぞれに声をかける。その場の全員を感激させるのは、アシスタントと呼ばれるいわゆるまだ一人前ではないスタッフへの心配りだ。「ちゃんと食べてるの、あなたもジュースいただいてるの」と。若いスタッフや俳優たちの集まりであった日活育ちの浅丘さんにとって、現場の人たちはみんな仲間なのである。浅丘ルリ子という女優には、固まっている空気を動かす不思議がある。その場にやさしい空気が流れはじめるのである。

「女優という仕事は見てくださる方々に夢を提供することだと教わってきました」


 映画『縁はるかに』で主役デピューをした少女時代から、ほとんどの時間を映画の撮影所ですごした浅丘ルリ子さんにとって、撮影所は学校のようなところだったのかもしれない。「映画スターは夢を提供する仕事」だと教わってきた浅丘さん。半世紀以上もの女優歴をもちながら、デビュー以来の女優としてのスタイルの軸が揺れることはない。本来、楽屋話であるはずの私生活の情報までもが人々の前にさらされるテレビのバラエティ番組をはじめとする現代のメディア状況のなかでも、浅丘さんが女優の顔以外で人々の前に現れることはない。その意味において女優・浅丘ルリ子はスターの要素であるミステリアスな衣をまとい、夢を見させてくれる奇跡的な存在なのかもしれない。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.20
    やっぱり懐かしい!映画『男はつらいよ』の世界にひた...

    京成電車下町さんぽ<2>

  • 2024.05.17
    町田市立国際版画美術館「幻想のフラヌール―版画家た...

    応募〆切:6月10日(月)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!