散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第32回 2022年12月27日
街で見かけるイラストの富士山は、大抵雪の冠姿だ。夏の山頂姿はあまり見かけない。多分、頭の中の富士山は、常に冬なのだろう。
銭湯の壁面の富士山にも大抵雪があった。熱い湯船に浸かりながら、真冬の厳しい山を見る。そのギャップがよかったのかも知れない。
山頂が白色なのは共通だけれど、山頂の形状が平坦なパターンと、ウェーブタイプに分かれている。これは何故なのだろうか。
フラットな姿は、そうあって欲しいと言う象徴、ギザギザはリアルに近づきたいと言う象徴。(笑)
最近、会社の一部を地方に移住させたと言うオーナーの話しを聞いた。富士山が噴火すると、何ヶ月も通信が途絶えてしまうらしい。その備えだ。あの優雅な山も、いつ自然の厳しさをあらわにするか誰も分からないのだ。
私は今、富士見坂、富士見橋,富士見ヶ丘とか言う名前の場所を訪ねて、本当に見えるかどうか撮影の散歩を続けている。もしかして、これは聖地巡礼なのかも知れない。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。