御洒落は遊び心から生じた楽しみのひとつ 

遊びをせんとや生まれけむ 第2回  2009年11月25日号より

2011年5月16日逝去。享年77。学習院大卒、東宝映画から俳優としてスタートし、多くの映画・ドラマに出演。その知性的な風貌とともに、無類の読書家としても知られ著書も多数。雑誌¿Como le va?の創刊号から絶筆となる7号まで健筆をふるってくれた。昭和を生きた人として常に世を憂い警鐘を鳴らしていた。

 

着崩しではなく、
はじめから崩れている若者諸君の服装

 御洒落(おしゃれ)であることは、実に気の遠くなるほどの日頃の努力の積み重ねがいかに必要であるかを悟(さと)ったのは、ずいぶんと昔のことだった。御洒落は、そのために日々心を磨かなければならないのだ。ローマは……ではないが、一日にしてはならないのだ。生来、ずぼらな性格の僕にはとうてい無理なことだと、ましてセンスの無さに、我ながら呆(あき)れてしまったことも重なって、このときから御洒落からドロップアウトしてしまったのだが、それでも御洒落でありたいという気持がまったく無くなってしまった訳では無い。

 だから、せめて清潔感とキチンとした服装をしようとだけは常日頃心がけている。清潔感は御洒落の大事な基本の一つだと思うことと、キチンととは決して堅苦しいことを意味しているのではなく、遊び心でどんなに崩した装いをしても、そこにまっとうな精神が漂っていなくては、真の遊び心ではないと考えるからだ。

 そんな僕だが、近頃の若者諸君の服装を見ているとどうにも納得がいかない。いや、ちょっぴり過激な発言をすれば、不愉快なのだ。そうした気持が芽生えたのは、もうずいぶんと前に遡る。日本国中のいろいろなところに仕事で行くたびに、そこでたまたま出逢う中学生や高校生の服装のだらし無さに愕然としたのだ。Yシャツをズボンの外に出し、襟元のボタンはもちろん、いくつものボタンをはずし、そこにネクタイをまるで魚の乾涸(ひから)びた干物のようにだらりとぶら下げている。制服を着ることで本来求められているキチンとしたところなどまったく無いばかりか、清潔感などまるっきり漂ってこない。ただ、だらしなさが際立っている上に薄汚い。東京で見かける生徒諸君も同じだ。キチンとしているのをわざと汚く崩したのではなく、はじめから崩れている、としか思えないだらしなさなのだ。これでは服装を着る意味が無い。キチンと着ることは時代に逆行することなのか、と、こうした中高生の集団と出逢うたびに考えたものだ。

遊び心の欠片も感じられない
安易さだらけのファッション

 爾来、ずいぶんと年月が過ぎ去ったが、最近の若い人たちを見ていると益々絶望感に捉われるものも、その間にどんどんとだらしなさの度合いが強まってきているからだ。楽な格好をすることにも少しも文句はないが、楽に、気軽にが、安易さに傾いているだけで、ただのEASY GOINGでしかない。遊び心の欠片(かけら)も感じられない。それが今のファッションなのさ、と言われてもどうにも理解できない。御洒落心はどこへ消えてしまったのか。

 誰も彼もがジーンズとはあまりに味気ない。それに破れた穴だらけのジーンズがそんなに格好いいのか。昔なら、本来他人(ひと)様に見せるべきではない下着を重ね着したような不思議で危(あぶ)な気な装いの女性が魅力的に見えるのか。単なる時代遅れのじじいの野暮天な発言かもしれないが百歩ゆずったとしても、どうにも御洒落とは思えないのだ。なにやら精神が荒廃していく道を世の中が辿っている。御洒落は人間の遊ぶ心から生じた人間だけに許された楽しみひとつだが、世の中に安売りが流行るように、人間の心も安く安くなっていく。あゝ凛とした遊び心が欲しいなぁ――。


2009年11月25日 Vol.2より
サントリー美術館様
森美術館

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