20.06.20 update

知恵の無い大人たちが、 遊び心や冒険心を疎外する

遊びをせんとや生まれけむ 第5回  2010年6月1日号より

2011年5月16日逝去。享年77。学習院大卒、東宝映画から俳優としてスタートし、多くの映画・ドラマに出演。その知性的な風貌とともに、無類の読書家としても知られ著書も多数。雑誌¿Como le va?の創刊号から絶筆となる7号まで健筆をふるってくれた。昭和を生きた人として常に世を憂い警鐘を鳴らしていた。

 

危険を察知してこそ生きる知恵は磨かれる

 こどもの遊び場からジャングルジムやシーソー、さらにはブランコが消えて久しい。原因はこどもの遊びに適切な遊具ではない、つまりは、怪我したりして危険だ、ということにあるようだ。金具の間に手を突っこんだり、挟(はさ)んだりして怪我をするこどもが出て来て、クレームをつけられた結果、それならばいっそのこと無くしてしまえば安全だということになったのだろう。

 しかし、これは由々しき問題を含んでいることになぜ大人が気が付かないのか、実に日本という国の危(あや)うさが、このジャングルジム撤去ということからも見えてくる。

 元来、遊びには危険がつきものだ。遊びにひそむ危険を察知してこそ人間の生きる知恵は磨かれる。不注意や、不測の事態が招く危険を遊びの中で学ばなければならない。にもかかわらず、怪我をしてしまう人間のために、それを取り去ってしまうことを続けたら、いったい最後に残るものは何なのだろうか?極論すれば、一人で生きていけない、知恵の無い大人が量産されるだけだ。それも、すべてを他人のせいにする情けない大人たちだ。世の中に、不注意な人間と、不測の事態を想定できない大人たちが充満することとなったら、その国は亡びる。

 ジャングルジムの楽しさを今更ここで強調するつもりはないが、途中何度も落ちそうになったりしながら、不安や危険を克服しててっぺんに辿り着いたときの爽快感は今でも心に甦る。冒険への限り無き憧れを抱くのもこのときだ。

奇妙な過保護の下で日常生活を送る日本人

 自殺をしたり、落ちたりされたら困ると、学校の屋上を鳥籠のように囲う大人たち。崖だから、柵が無いので落ちたとクレームされるのが恐いと立派な柵を作ってしまう大人たち。エスカレーターの真ん中に乗れ、と絶えず繰り返される安全コール。黄色い線の内側で電車や列車を待て、と連呼される駅のホームのアナウンス。親切心の表れと言えなくはないが、奇妙な(敢えて奇妙な、と書くが)過保護の下で日本人は日常生活を送る。科学やテクノロジーの発達によって便利さを享受する日本人は、益々大人の幼稚化が進み、一人立ち出来ない大人を輩出することとなる。結果、不測の事態が続出する日本。

 ああ、なんたることか。遊び心も冒険心も、安全を守るため、という知恵の無い大人たちによって疎外されて育った、同じく自立できない大人たちが充満する社会。ああ、誰か助けてくれないものか。

 

こだま きよし
俳優(1934~2011) 東京都生まれ。58年学習院大学文学部ドイツ文学科卒業。同年6月、東宝映画と俳優専属契約を結ぶ。67年にフリーとなる。映画『別れて生きるときも』『戦場に流れる歌』『HERO』など、テレドラマ「ありがとう」「花は花よめ」「肝っ玉かあさん」「白い巨塔」「黄金の日々」「沿線地図」「獅子の時代」「想い出づくり」「親と子の誤算」「山河燃ゆ」「武田信玄」「HERO」「美女か野獣か」「ファイト」「トップキャスター」「こんにちは、母さん」「鹿男あをによし」など多数の出演作がある。ドラマ以外でもテレビ「パネルクイズアタック25」「週刊ブックレビュー」、「びっくり法律旅行社」、ラジオ「テレフォン人生相談」など。著書に『寝ても覚めても本の虫』『負けるのは美しく』『児玉清の「あの作家に会いたい」一人と作品をめぐる25の対話』などがある。

2010年6月1日 Vol.5より
映画は死なず

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