24.06.28 update

第14回 日韓合作によりヒーローの知られざる実像を炙り出した映画『力道山』

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。

 香港との合作映画『孔雀王』(1988)の経験はあったが、その時は相手のゴールデンハーベスト社とフジテレビの関係からスタートした。

 今回の2006年日本公開の日韓合作映画『力道山』は個人的な関係から始まった。

 きっかけは、日本で『八月のクリスマス』(1998/韓国映画)の試写会に配給会社から招かれ、新橋で映画を観たことだった。上映終了後、ホ・ジノ監督を紹介され、「とても面白かった!」と言ったあとに、あまりに主演女優に魅かれたのか「シム・ウナ主演で一緒に映画やりませんか!」と僕が言ったらしい。「らしい」というのは自分の記憶が定かでないからだが、その後、監督は1年以上に渡り、シナリオ執筆をすることになる。

 ここで、プロデューサーでもあり製作会社(ウノ・フィルム)の社長でもあったチャ・スンジェ氏との出会いがその後の『力道山』、それだけでなく、その後何十回と韓国に行くことにもなる。僕が最もリスペクトする映画人である。彼は『ほえる犬は噛まない』(2000)や『殺人の追憶』(2003)などのポン・ジュノ監督作品から、日本のドラマの映画化『私の頭の中の消しゴム』(2004)など幅広く製作し、同世代で初対面時から気が合った。

 ちょっと残念だったのは、ホ・ジノ監督がシナリオ執筆中に、シム・ウナが突如引退してしまう。シナリオが1年以上かかって遅れていたが、何より「シム・ウナ主演」が無くなったことで、日本の出資者も一旦いなくなってしまう。

 そんな時、香港の監督で、プロデューサーでもあるピーター・チャンから連絡が来る。彼との付き合いは『孔雀王』くらいからと古く、彼の監督作『君さえいれば/金枝玉葉』(1994香港/レスリー・チャン&アニタ・ユイ&カリーナ・ラウ)は大好きな映画だ。

 思えば僕が『リング』(1998)を製作した時も連絡があり「一緒にホラーでオムニバス合作しようぜ!」と。僕はやってもいいかと思ったが中田秀夫監督のノリもイマイチ? でそれは流してしまった。その映画のタイトルは最初『FOUR』と言った。4人の監督で4作のオムニバス。日本が抜けて『THREE/臨死』(2002)となり、3人の監督(キム・ジウン『甘い人生』&ノンスィー・ニミブット『ナンナーク』&ピーター・チャン」)で香港・タイ・韓国の3か国合作映画となり、日本でも公開された。紆余曲折あっても実現化する香港パワーおそるべし。

 そのピーターがホ・ジノ監督に興味を示し、僕がやっているのを知って、製作にも参加したいと。ただ、シム・ウナの件もあり、自分では前に進みにくい感じだったが、「やろう! やろうよ!」とのことで、韓国でチャ・スンジェら皆で会った。ピーターの親友のジャッキー・チェンもいて、なぜか朝までジャッキーともカラオケに行った記憶がある。覚えているのはちょうど『ラッシュアワー2』(2001/米)の頃で、「ハリウッドのギャラ幾ら?」と聞くと「16億円位(当時のレート)」と答えてくれた気がする。「韓国や日本映画だと全く値段が合わない!」と言うと「その場合は1億円以下で良いんだ!」と言ったような。カラオケの途中の会話なのでさて……。『孔雀王』(1988)の時は,此方からジャッキーにオファーしたが、「1億2000万の出演費」と香港サイドから言われて諦めたことは覚えている。

▲2005年10月22日から30日に開催された第18回東京国際映画祭。オープニング上映は、チャン・イーモウ監督、高倉健主演の中国映画『単騎、千里を走る』で、クロージング上映には、ソン・ヘソン監督、韓国のスーパースターであるソル・ギョング主演の日韓合作映画『力道山』が選ばれた。アジアのコラボ映画が映画祭を彩った年と言えるだろう。韓国での公開は前年の2004年で、日本での公開は2006年4月の公開だった。日本公開版はオリジナルの2時間11分に編集を加え、18分長い特別バージョンになっている。キャッチコピーは、〝日本人がいちばん力道山を知らない〟。朝鮮人としての側面にフォーカス・オンし、肯定的、否定的な側面をすべて盛り込み、作品は高評価を得た。東京国際映画祭での10月30日のクロージング上映の際には、主演のソル・ギョング(写真中央)、プロデューサーのチャ・スンジェ(左)、ソン・ヘソン監督(右端)も舞台挨拶に出席し、喝采を浴びた。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.13
    WEST.の濵田崇裕&神山智洋のW主演による劇場を...

    コメディ・ミュージカル『プロデューサーズ』

  • 2024.11.13
    <特集>高峰秀子 ──日本映画史に燦然と輝く足跡と...

    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」 文=米谷紳之介

  • 2024.11.11
    〈海老名中央公園〉をジャックする大イベント「おだき...

    小田急グループ施設のほか、沿線アミューズメント施設の招待券等が当たる

  • 2024.11.08
    親と離れて暮らす子どもたちが何を思い、悩み、どう大...

    応募〆切: 11月25日(月)

  • 2024.11.08
    池松壮亮、妻夫木聡、仲野太賀、水上恒司らが「石井組...

    平野啓一郎の小説『本心』を石井裕也監督が映画化

  • 2024.11.07
    麻布台、六本木など5つのヒルズが連動した、「CHR...

    キーメッセージは「I LaLaLa YOU」、訪れた人々がよろこびでつながり合うクリスマス

  • 2024.11.07
    朝ドラ「虎に翼」が記憶をよみがえらせた御茶の水、駿...

    ガロ「学生街の喫茶店」

  • 2024.11.06
    ブータン初のオスカー候補になった『ブータン 山の学...

    応募〆切:12月10日(火)

  • 2024.11.06
    生涯のベスト作品に挙げる映画ファンも多いイタリア映...

    『イル・ポスティーノ』が4Kデジタル・リマスター版で11/8から

  • 2024.11.06
    満島ひかりと安藤サクラが大ブレイクすることになる園...

    文=河井真也

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!