津田かおり(ホテル仙景 若女将)
◆親娘三代で暖簾を守る老舗旅館
ホテル仙景は、箱根湯本の地で創業して60年になります。石川県出身の祖父が実業家で、いろいろな事業を手広くやっていましたがホテル事業はその一つでした。祖母も健在で、大女将、母が女将、そして私が若女将をつとめ、親娘三代で暖簾を守っています。箱根でも三代がそろう旅館は珍しいのではないでしょうか。
当館は箱根湯本駅から歩いて10分ほどで、緩やかなせせらぎが心地よい須雲川沿いにあります。賑やかな湯本温泉街の中心部にありますが、湧水を利用した水車が一つの目印になっています。「本館 仙景」の15の客室は、全ての部屋に源泉温泉を引き、それぞれ違った間取りになっています。特に最上階にある特別室は見晴らしもよく、80㎡の広さで自家源泉の展望露天風呂が自慢の和室です。6人でもゆったりと過ごすことができますので、海外からのお客様にも好評です。半露天風呂のついた40㎡の部屋や、湯坂山を望める20㎡の和室などもあります。
ほかに気軽に箱根温泉を楽しみたい方に「仙景プラザ」があります。本館と同じ展望露天風呂、大浴場が利用できますし、着物や浴衣で箱根を歩くことができるプランなども用意しています。さらに「離れ 山家荘」は、北大路魯山人と縁の深い料亭「花の茶屋」を引き継いだものです。茅葺き屋根の一軒家が5棟、日本庭園の中に点在している作りで、〝大人の隠れ家〟のような趣があります。そして部屋食にこだわり、昔ながらの伝統を守ることも大切にしています。
◆SDGs、「わたしたちにできること」
箱根で生まれ育った私ですが、イギリスに留学し、帰国後旅行会社や金融会社で働き、13年前から若女将になりました。3年前程に、ある企業経営者たちが集うマーケティングセミナーに参加し、「2030 SDGs カードゲーム」を体験しました。スーツの襟にSDGsのバッヂをつけている人を街中で多く見かけるようになりましたが、まだまだ飾りのようなもので、人々の生活の中に身についているとは言えません。私自身もこのゲームを体験するまでは、大企業には必要なことかもしれませんが、自分たちのような小企業にはあまり関係ないと思っていました。
ところが、ゲームを実際に体験して、「わたしたちにもできることがあるのでは」と実感したのです。SDGsには、より良い世界をつくるために設定された世界共通の17の目標がありますが、このゲームは、SDGsの目標を一つひとつ勉強するものではなく、なぜSDGsが私たちの世界に必要なのか、それがあることによってどんな変化や可能性があるかを体験的に理解し、自分たちの力で世界を変えていける可能性を感じるものです。美味しいものがあったら、人に薦めたくなるように、このゲームを世の中の人にもっと薦めたいと思いましたが、それには資格が必要でした。そこで「2030 SDGs 公認ファシリテーター」の資格を取得したのです。以後、学校での授業や、観光協会、企業でゲームを使ったワークをしています。先日はお取引先の金融企業の新入社員研修でワークショップをさせてもらいました。
今年2月には、箱根温泉おかみの会の皆さんにも、このゲームを体験してもらいました。はじめは慣れないようでしたが、ゲームに夢中になり楽しんで学んでいただいているようでした。子供たちや多くの人がゲームを体験することによって、SDGsを身近に感じてもらえば嬉しいです。