鈴木 一成
(HOTEL CLAD・木の花の湯 支配人)
夜空に浮かべた HOPE、Fight!の電光文字
高い天井のエントランスロビーから1歩、2歩進むと、大きなガラス窓の向こうには富士山の全景が目に入ります。なだらかな裾野までの絶景を見渡すことができるホテル『HOTEL CLAD(クラッド)』がオープンしたのは、2019年12月15日でした。日本国内最大規模のアウトレット『御殿場プレミアム・アウトレット』の新しい増設エリア「HILL SIDE」内の高台に位置し、ショッピングを楽しんだ後は富士山の絶景を眺めながら、疲れを癒すことのできる日帰り温泉『木の花の湯』も併設したリゾートホテルとして誕生しました。
しかし、オープン早々、世界を襲った新型コロナウイルスの蔓延です。ホテル開業と一緒にオープンの予定だったアウトレットの新エリア「HILL SIDE」も開業が延期になり、アウトレット自体も緊急事態宣言の発令と共に休業になってしまいました。その間の2カ月は、当然お客さんもなくなり、寂しい静かなホテルでした。日帰り温泉は止めましたが、施設の維持のためにもホテルは稼働し続け、雇用継続給付金などの援助で、従業員の雇用は何としても守り抜きました。
そんな状態が続いた中で、私たちの気持ちを届けたいと思い、実施したのは客室の照明を使って「HOPE」と「Fight !」という文字をホテルの建物に映したことです。真っ暗な空間に描き出された文字は、高速道路を運転する人や、地元の人たちの目に留まり、SNSでも話題になりました。
昨年の夏は、一年遅れの東京オリンピック2020が開催され、当ホテルも自転車ロードレース競技の選手たちの宿泊所になりました。ホテルは貸し切りで、レストランでバイキングをやりましたが、大変好評で、8月からの朝食バイキングへ再開への弾みがつきました。30ケ国、約120人の選手、関係者の皆さんのたちをお世話したこと、さらにロードレース3種目ともに金メダル選手が生まれたことも記憶に残る出来事です。
富士山の恵みとコラボした箱根育ちの遊び心
当ホテルのある静岡県御殿場市は、知る人ぞ知る温泉や上質な水に恵まれていて、市内には多数の温浴施設があります。今年4月15日~5月22日には、御殿場市と協力して、「御殿場温泉・サウナ 天国めぐり」キャンペーンなどを初めて開催しました。御殿場市の水道水は、富士山の雪解け水の恩恵もあり、ミネラル豊富な柔らかくて優しい水です。軟水の水で入れたお茶はもちろん美味しいです。御殿場市の老舗茶園「荒井園」さんの協力もいただいて、オリジナル商品・和紅茶「Gotemba Time Tea」のクラウドファンティングを実施しました。これは予想以上のご支援をいただき大成功でしたが、コロナ禍で停滞していた日常業務の中でも頭と体を使って働く喜びを再確認でき、従業員たちも〝張り〟があったのではないでしょうか。
この地にホテルを作るという話を2015年に受けたとき、御殿場はどうしても、箱根で宿泊する人たちの通過点になりがちですから、アウトレットに来た人がショッピングで疲れた足を休める日帰り温泉を作る、そんな提案しました。収支にあう部屋数の策定など個々のプロジェクトが動き出したのが2017年です。それから2年後2019年12月にオープンを迎え、これからというとき、未曽有の危機に見舞われました。この間、PR活動ができませんでしたので、認知度はまだまだです。やっとここにきて人の動きが見えてきました。
富士山ビューにこだわり、客室をはじめとしてホテル内は景観を配慮したつくりになっています。とても天井が高く大変解放感のある空間です。ファミリーで泊まられたお客様の5歳くらいの女の子が、「富士山に手が届きそう」と喜んでいましたが、雄大な富士山を目の前にすると、私たちは力が湧いてくるのではないでしょうか。
「滞在型ショッピングリゾートホテル」と銘を打ち、御殿場プレミアム・アウトレットと連携し、遅れた2年間を取り戻したいと思っています。(談・文責編集部)
すずき かずなり
1965年神奈川県箱根町生まれ。高校卒業後小田急リゾーツ入社。山のホテル、ポーラ美術館レストラン、ホテルはつはな支配人等を経て、2018年開業準部室を経て現職。現在小田急リゾーツ営業本部 副本部長も兼務。
HOTEL CLAD(ホテル クラッド)
〔住〕静岡県御殿場市深沢2839-1
〔問〕0550-81-0321