24.01.16 update

寄席もいい、特設演芸場でもいい。伝承されてきた〝芸〟で幸せな気分を味ってみよう

2018年4月1日号「街へ出よう」より


昭和の〝ラジオの時代〟広沢虎造のうなり声が聞こえ、古今亭志ん生の落語に涙を流して笑った幸せな時間があった。浪曲、落語、漫才、色物と長く庶民の間で伝承されてきたそれぞれの〝芸〟。
よしやと演芸場に出掛けてみれば、苦笑、爆笑、涙あり、みんな幸せな気分を味わっている。寄席もいいし特設演芸場でもいい。贔屓の芸人さん目当てでも、伸び盛りの若手芸人を発見するのも楽しみだ。ふらりと出掛けてみてはいかがだろうか。

浅草木馬亭にて photograph by Yasukuni

演芸を楽しむ

~苦笑、爆笑、涙ありの幸福な時間~

文・太田 和彦


 〇月×日 浅草には寄席「浅草演芸ホール」と浪曲定席「木馬亭」がある。浪曲はなじみがなかったが、すすめられて行った木馬亭で玉川奈々福さんの舞台を見てすっかりファンになってしまった。

 冒頭解題から一転、声艶ゆたかな名調子、唸るこぶし、切れる啖呵、人物描写、表情変化、地声で笑いをとる「けれん」。音頭朗々もった扇子をパッとかざして見得をきれば「よし!」「その調子!」とわき立つ大拍手。奈々福孃は水も滴るいい女、というより、水もはじき飛ばすピカピカのいい女。
ぐんぐん物語を進め、時に一瞬の間の沈黙。曲師合いの手「ア、イヤ、ホウ」の阿吽の呼吸。明る軽やかに、たっぷり感情を込めて語り尽さんとする「覇気」がすばらしい。浪曲ってこんなに面白いものだったか! 
 ――以上はその時の興奮をつづったものだ。

女浪曲師と上方落語のコラボレーション

 幟旗の立つ木馬亭が開場すると客席は最前列から埋まってゆく。真っ赤な座に木のひじ乗せのはねあげ、客椅子はやや小さめでいかにも往時の定席。舞台正面右書きに「飛龍鳳舞」の額。左右には演者の名入り赤提灯がずらりと並んで雰囲気をつくる。客は男女ほぼ半々、中高年ではない若めの女性一人も多く、席をとってから「あら、〇〇さーん」と声をかけあって皆様常連の雰囲気だ。
 今日は「奈々福×吉坊二人会」。様々な「道行き」をテーマに上方落語の桂吉坊と組んだ「みちゆき」シリーズの第五夜「帰る旅、帰れぬ旅」。
 チョーンと柝が入り幕が開くと、間近に向き合う二人がを巻いて上半身を隠す意味深な立ち姿。満場思わず息をのむとはらりと茣蓙が落ち「しまった、見られた」とずっこけて大爆笑という快調な出だし。二人会五回目の挨拶あって本番は、まずは奈々福嬢から。白地の演台架布は蓮の花に金魚が二尾泳ぐ艶やかな絵柄。本日の演目はおなじみ「石松金毘羅代参」。名コンビの曲師・沢村豊子の三味線がベベンと鳴り、大向こう「待ってました!」の掛け声あって始まった。

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映画は死なず

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