23.03.28 update

アンティーク蒐集は、男の偏愛に違いない

2019年1月1日号「街へ出よう」より


西洋アンティークは、ヨーロッパの各国の歴史や文化が感じられることが魅力だ。
陶磁器やガラス器、銀器、家具、時計、ジュエリー、インテリア小物や照明器具……
大切に受け継いでゆく西洋の暮らしぶりを想像しながら、
自分の生活にも取り入れたい。
時代にこだわることなく、ブリキ缶、バスケット、フラワーベースなどのぬくもりのあるインテリア小物は、書斎やダイニングを心豊かにくつろげる空間を演出してくれる。
実用価値、美術価値、骨董的価値などさておいて
自分だけのお気に入りのひとつを見つけに、街へ出かけよう。

photograph by Yasukuni

西洋アンティークの楽しみ

~男にしかわからない古物への偏愛~

文・太田和彦


執筆の守り神、真鍮の〝猿〟はロンドンからやって来た

 昔、ロンドンで案内された泥棒市であれこれ見てまわるうち何か買いたくなり、高さ十五センチほどの真鍮の猿に目が止まった。両足で立ち、何かを捧げるように手を差し伸べて広げ、少し横を向いた表情に愛敬がある。雄らしく股間にちょこんと突起のつくのも可愛らしい。

「イズイッツ、ラッキーモンキー?」
「オー、イエースイエース」
 売る男は「そうですそうです」と大きく手を広げて真似した。案外重いのを鞄につめて仕事場に持ち帰り、広げた腕に鉛筆を一本置くと「ご主人さまお疲れさまです、さあもう一仕事」と言うようだ。足の小さな穴は、もとは台があったのだろう。彼もはるばるロンドンから日本に新しい居場所を得た。以来、私の執筆の守り神。

 机の真空管アンプの上にある、短い四脚に首の長い小さな青銅の馬(?)は京都で買ったもので中東風だ。機能本位のアンプにこれを置くと雰囲気が温かくなった。
 鉛筆立て手前の、ややメキシコ貴族風のつばの広い帽子に肩カバン、鎖でロバを引く、高さ五センチに満たない真鍮置物はどこで買ったのか忘れた。
 後年また訪れたロンドンで、有名なノッティングヒル・ポートベローの土曜骨董市に目指して行った。およそ1キロもある通りの両側は露店が並んで人でぎっしりだ。まず右側、帰りは左側と決めてゆるゆると一巡。多いのはティーカップなど食器だが割れ物は敬遠し、目をつけたのは、細いガラス巻に気泡を一つ入れて建物などの水平をみる真鍮の水準器。古錆びて私には全く実用の意味はないが、こういう古い専門道具もまた好きなのだ。


旅先で出合う古物のお気に入りは金物ばかり


 旅をして古道具屋やアンティークショップがあるとのぞくようになった。和の古道具は盃、徳利、藍染め小皿を探すので実用でもあるが、西洋骨董のアンティークショップは純然たる趣味だ。私の好きなのは無垢の金物でとくに真鍮好き。
 京都清水寺・五条坂の骨董市で見つけた半裸で琵琶を弾く真鍮の弁天様は値段的に決断を要し、明日来てもあったら買うと決めて翌日行くとあり、価格交渉して買った。大津の古道具屋でみつけた小さな亀は案外よい値段だが頑としてまけてくれず、逆に掘り出し物なのだろうと購入。ずしりと重く文鎮にちょうど良い。京都でいつものぞく店に、アメリカのものだろうか、「1lb」と浮き彫りした量り用の正1ポンドの鉄の重しがあり、およそ450グラムはまさに文鎮と購入。アルバイトらしい女性店員は「よくこんなもの買いますね」という顔だった。中国上海の土産物屋で買った鋳鉄の大仏は座布団を敷いて安置してある。
 旅の買物に金物の難点は重いことだが、だからいい。私の父の実家は信州松本に四代続く金物職人で、幼い頃、真っ赤に焼いた鉄を叩いたり、小さな鑿で装飾を刻んでゆくのを飽かず見ていたから金物好きになったのだろう。

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